私たちが持つ10の本能

◆本能1 分断本能

「世界は分断されている」という思い込み

 世界には「豊かな国」と「貧しい国」という2つのグループがあり、その間には、決して埋まらない溝があると考えがち。だが、データを見れば、実際には分断はなく、大半が2つの中間部分にいると分かる。メディアが2項対立を強調することで、「分断本能」が世の中にまん延し、データのゆがんだ解釈につながっている。

極端な数字の比較に流されない

 単純化された平均値や、極端な数字の比較には注意。常に「大半」がどこにいるかを探そう。また、高い場所からだとすべてが低く見えるが、そのなかにも「中」「低」の差があることを意識し、自分のなかの偏見を解こう。


◆本能2 ネガティブ本能

「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み

 人は物事のポジティブな面よりも、ネガティブな面に気づきやすい本能を持つ。「昔は良かった」というあやふやな記憶や悪いニュースが目につきやすいため、「世界はどんどん悪くなっている」と思い込む傾向にある。データに基づく「良くなっていること」を確かめず、次第に「何をやっても無駄だ」と希望を失ってしまうケースも。

悪いニュースのほうが広まりやすい

 ネガティブなニュースのほうが耳に入りやすく、好転しても、そのことについて知る機会は少ない。そのため、実際よりも悪いイメージが定着しがちだ。そのことを知るだけで、暗いニュースに不安をあおられることが少なくなる。


◆本能3 直線本能

「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み

 世界の人口は「ひたすら」増え続ける。これは、今までの人口が直線的に右肩上がりなのを見て、その直線が続くと思い込む本能が生み出す誤解だ。正解は、確かに増えるが、徐々に緩やかな曲線になる。ちなみに、人口が増える理由は、メディアがあおるように75歳以上が増え続けるからではなく、15歳〜74歳の大人が増えるからだ。

真っすぐ上がり続けはしないと知る

 「グラフは真っすぐになる」という思い込みに気づき、データを見るときになんでも直線のグラフを当てはめないこと。多くのグラフは直線ではなく、S字カーブやすべり台の形などのほうが当てはまると知ること。


◆本能4 恐怖本能

危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み

 度重なる凶悪犯罪の報道に、「いつか自分も巻き込まれるのではないか」と不安に駆られてしまうなど、実際に起こる確率が低いことを、必要以上に危険だと考えて恐れてしまう傾向がある。恐怖でパニックになると、全く無害の人を「悪い人間」と思い込むなど、判断力が鈍ることがあり、一方で、本当の危険を見逃してしまう可能性もある。

リスクとは「危険度×頻度」である

 本当のリスクとは、「危険度」と「頻度」の掛け算で決まると肝に銘じよう。どんなに危険なものでも、その頻度が低ければ、リスクは決して高くない。「恐ろしいものには、自然と目が行ってしまう」という本能を心に刻もう。


◆本能5 過大視本能

「目の前の数字が一番重要だ」という思い込み

 メディアは、さまざまな事件・事実・数字を、実際よりも重要であるかのように伝えたがる。また、「苦しんでいる人たちから目を背けるのは後ろめたい」という気持ちを逆手に取ろうとする。そのため、情報の提供者が導きたい方向へと誘導されがちだ。目の前にある物語の裏にある数字を冷静に見ることで、問題の本質と解決に近づける。

重要そうな1つの数字に用心する

 重要そうな顔をして登場する数字に出合ったときこそ、他の数字を探して比較すること。また、例えば国ごとのCO2排出量などの総量の比較は、人口で割って1人当たりを算出するなど、割ることもしてみよう。