意識を変えるための、一つの提案

 ……とはいえ、いきなり意識を変えていくのは難しいものです。何より、人によって「どこまで頼っていいか」「どこから助けが欲しいか」のラインはさまざまです。まずはそこから見極めることで、どんな状況でもうまく人にパスが出せるようになると、次第に状況に応じた頼り方ができるようになります。

 そこで、僕はいつも新しいプロジェクトを始めるとき、チームで行う「トラストフォール」という身体メソッドを実践しています。チーム全体で、体を使ったエクササイズを行うことで、「人に頼ること」を文字通り体で覚えてしまおう、というものです。(これから紹介するのは僕なりに応用したエクササイズですが、組織開発ファシリテーターの長尾彰さん、楽天大学学長の仲山進也さんがやられているチームビルディング研修を参考にしています。興味がある方は検索してみてください)

 これは、ぜひ部署ごとやチームごとに行ってください。方法は簡単です。

(1)2人1組で縦1列に並び、「前ならえ」をするくらいの間隔を空けて立ちます。
(2)前の人は、これから後ろに倒れることを事前に合図し、後ろの人の準備が整ったか確認をしたら、棒になったつもりで、背中から後方に倒れます。
(3)後ろの人は、倒れてきた前の人を両手でしっかり支えます。
(4)前後で交代して、もう一度(1)から始めます。

 アクセサリーや腕時計、メガネなどはケガの元になるので、外しましょう。また、必ず足元に障害物のないところで行ってください。それと、ゲーム感覚ということもあって、時折ふざけてしまう人がいるのですが、これも危険です。「倒れてくる人を必ず支える」という緊張感をしっかり持ち、楽しく取り組みましょう。慣れないうちは2人の間隔を狭めて、小さく練習をしながらコツをつかんでいくといいです。

体を使ってこそ分かること

 これは実際にやってもらうと分かるのですが、人によって、すぐに支えてほしい人と、尻もちをつくギリギリまで支えなくていい人、そもそも後ろ向きに倒れることが怖くてできない人など、さまざまな反応があります。チームメンバー同士で、お互いに支えたり支えてもらったりすることを体で覚えていくと、だんだんと「この人は結構放っておいてほしいんだな」とか「この人はなるべく気にかけてもらうことで、安心させてほしい人だ」というようなことが感覚で分かってくるのです。

 「私、本当はスリリングな気分になるのが楽しいから、むしろ追い込んでほしいんです」とか、「あれ、君は意外にも心配性なんだね。なら、もっと気にかけたほうがいいんだね」というような会話も弾みやすくなります。実際に仕事をしながらお互いに様子をうかがうより、こういった身体メソッドをゲーム感覚で行ったほうが、オープンな会話をしやすくなり、事前にお互いのラインを共有することができるのです。

 何より、人と支え合う気持ちよさを覚えていくことができます。「何をどう言えば伝わるのか」も自然と分かってくるでしょう。その積み重ねによって「迷惑をかけちゃいけない」という思い込みが解ける日が来るかもしれません。

取材・文/小野田弥恵 イメージイラスト/PIXTA