「信念」が痛みに変わるとき

 読者の皆さんも、そういう信念をきっと持っているでしょう。

 例えば、常に「約束の時間より早めに行動すること」が当たり前な人は、そう振る舞うことが気持ちいいからそうしています。一方で、そんな人は「いつも遅刻してくる人」に対して、人一倍許せないという感情を抱いてしまうかもしれません。

 つまり、心のエンジンである「信念」とは、それを他者に踏みにじられたとき、強い怒りの感情にもなり得るのです。言い換えれば「信念」は、自分の「励み」にも、侵されたときには強い「痛み」にもなるものです。

 ではこの仕組みを理解した上で、どうすれば感情を暴走させずに、かつ否定することもなく、「信念」とうまく付き合っていくことができるのでしょうか。

まずは「信念」をつかまえてみよう

 非常にシンプルなやり方があります。まず、仕事中に強い怒りの感情が湧いてきたら、迷わずトイレに駆け込みましょう。「こうすべきなのにどうして!」という怒りを吐き出す前に、その場からエイッと退散してしまうのです。

 ひとまず気持ちが落ち着いたら、デスクに戻り、紙とペンを用意します。そして、自分に対し「なぜこんなに心が痛いのか、頭にくるのか」を問いかけながら、思い付いたことを書き出していきます。

 すると、自分が激しく頭にきてしまうのは、「自分はこうあるべきだと思う」という「べき論」に対し、相手のとった行動が極端に外れているからこそ、「許せない」と感じるのだと具体的に気付くことができます。このときの「こうあるべきだ」という心からの叫びこそが、あなたの大事な信念です。

 ここで書き出された信念は、まずはあなたのエンジンであることを受け入れましょう。決してそれらを否定しないでください。「いいんだ、こう思うことはいいんだ」と、認めてあげます。

 その上で、自分にとって非常に合理的だと感じられる「信念」は、他者にとっては非合理的な場合もあることを認識します。

 例えば僕の場合、プロを名乗る人が、まるで僕の考える「プロ」らしくない振る舞いをしていると気になってしまいます。でも「あの人にはあの人のやり方があるんだ。決して支持できないけど、ああいうやり方があってもいいんだ。でも僕は、自分のやり方でこれからも頑張ろう」と考えるようにします。そういった具合です。

「ラベリング」すると、負の感情もコントロールしやすくなる

 さらに、やや心理療法に近いメソッドですが、信念に対して「ラベリング」をするのもオススメです。これは、実際に僕が試したものなのですが、先ほどの例であれば「プロフェッショナルくん」というように、苦手な振る舞いをする相手に心の中でニックネームを付けるのです。

 そうしてラベリングすることによって、モヤモヤしたマイナスの感情が、いつ暴走するか分からない漠然としたものではなく、自分に「信念」があるからこそ生まれてくるものとして認識しやすくなります。すると、コントロールがしやすくなります。

 これに慣れてくると、仕事で感情的になり、むやみに消耗することがグンと減っていきます。何より、他者の言動のせいで気が散ることが少なくなり、仕事への集中度も格段にアップします。思い当たることのある人は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。

取材・文/小野田弥恵 イメージイラスト/PIXTA