その「お得感」にだまされないで

 セールの真っただ中、店の目立つところに「セール対象外商品」を置くのは、私なりに行動経済学で解釈すれば、理由ははっきりと見えてきます。

 これは「アンカリング効果」を狙ったものです。アンカリングとはアンカー、すなわち船のイカリを下ろすこと。

 人間は最初に示されたり、与えられたりした数字に強い影響を受けるという心理を持っています。つまり最初の数字がアンカーとなって、その数字を基準に考えてしまう。この場合、「セール対象外商品」、すなわち正規の価格の商品と、セール商品との価格差を際立たせることによって、いかにセール品がお得かということを示すために置いてあるのではないでしょうか。

 「同じワンピースでもこれは最新入荷品なのでセール対象外だけれど、少し前の商品ならセールでこんなに安くなっているんですよ」ということを具体的な数字で示されると、誰もがセール商品の割安感を感じ、つい引き込まれて買ってしまうということが起こり得ます。

人が何かを選択するのは、「お得感」を感じたとき

 また、「セール対象外商品」はアンカリング効果のためにあると同時に別な見方をすれば「おとり効果」(Decoy Effect)を出すために展示してあるということも考えられます。Decoy=デコイとは、狩猟のときにおとりに使う鳥の模型のことです。

 人が何かを選択する場合は比較して「お得感」を感じたときに決める傾向があります。そこで実際には選ばれることのない選択肢を“おとり(Decoy)”として提示することによって、顧客の判断を誘導することを狙っているのです。

 このように考えていくと、恐らくあまり買う人はいないであろうセール対象外商品が店の目立つ場所に置いてあるということも納得できます。少しぐらいスペースを費やしても、他の商品の販売促進になるのであれば十分価値があると言えるからです。


 誰もがごく自然に出かけて、ついたくさん買ってしまうバーゲンにも人間の心理を考えた仕掛けが施されていることがよく分かります。セールというのは頻繁に行っているわけではありませんから(頻繁に行っているお店もあるかもしれませんが)、そこで少しぐらいお金を使ってもあまり目くじらを立てる必要はないでしょう。ただ、買った後もほとんど着ない洋服が山のようにあるとしたら、次にセールに行くときは、もうすこしじっくり考えたほうがいいかもしれませんね。

文/大江英樹 イラスト/ちーぱか