行動経済学は「お金」に限った話ではありません。「損する」「損しない」という感情は人間の気持ちや感情にもつながります。今回は、会社で起こりがちな「あるある」の一つをご紹介。「損しない気持ち」を育む対処法を考えていきましょう。

困った上司に遭遇したら

 社内で上司と仕事のやり取りをする中で、「頭にくる言葉」を上司が発することはよくあります。特に、何かうまくいかなかったときのセリフにはとてもムカッとする場合が多いように思います。これにはありがちな二つのパターンがあります。

1.「俺は知らないぞ、聞いてない」(いえいえ、ちゃんと報告しましたよ!)
2.「たぶんこうなると思っていたんだよ!」(だったら事前にそう言ってくれません?)

 いずれもカッコの中は、それを言われた時の気持ちを表していますが、恐らく経験したことがある人は多いのではないでしょうか。いずれにも共通するのは「後講釈(あとこうしゃく)」だということ。

 さらに同じ後講釈でも、タイプは違ってきます。

 1.「俺は知らないぞ、聞いてない」……
 直接、間接を問わず「自分は関知していない、それは部下がやったことだ」と言って逃げるタイプ。

 2.「たぶんこうなると思っていたんだよ!」……
 自分も予測できなかったくせに、あたかも最初から知っていたと言わんばかりの後講釈をするタイプ。

 こんなふうに言われたら、本当に気分が悪いし、何だか一日損した気分になってしまいます。そこで少しでも「気持ちの損」をしないために、なぜ上司はそんなことを言うのか、そして私たちはどう考え、対処すべきなのかを考えてみましょう。

「後知恵(あとぢえ)バイアス」とは

 1の逃げるタイプの上司はどうしようもありません。振り回されているなら、彼(彼女)が転勤するのを祈るか、自ら異動を願い出るか。あるいはこれを機に華麗に転職するのも手かもしれません。

 問題は2に見られるタイプです。

 これは「後知恵(あとぢえ)バイアス」といって、個人の感じ方による勘違いなのですが、人間の心理ではしばしば起きること。「実際に起こったことは、起こらなかったことに比べて可能性が高かった」と、後になって感じる心理をいいます。特に仕事の場では非常に起こりやすい。

 この原因は「曖昧な記憶」と「自分の能力への過信」にあります。人は誰でも、物事が起こる前に自分がどう考えていたかを忘れがちです。したがって、起きたことは「やっぱり自分が思っていた通りだ!」と感じてしまうのです。