ロールモデルは、いろんな人の「いいとこ取り」を

ゼミ生Bさん 浜田さんの本では、「ロールモデルはパッチワークでいい」というところが印象的でした。いろんな人のいい所を少しずつまねする方法を、浜田さんは実際どのようになさってきたのでしょうか?

浜田 まずは、形からまねる方法でいいんじゃないでしょうか。私が初めて管理職になった時には、社内に女性管理職はほとんどいなかったので、取材で出会った女性たちに話を聞いて、自分に足りないものを補うようにしていました。例えば、私はとても短気でイライラするとすぐに顔に出てしまうのですが(笑)、リクルートエグゼクティブ(当時)の管理職だった森本千賀子さんに「机に鏡を置いて、表情のセルフチェックをするといいよ」と聞いて実践しました。そういった知恵を、同世代の女性たちで集まって持ち寄っては共有していましたね。

 強調したいのは、「ロールモデルは一人じゃない」ということ。「なりたいと思えるロールモデルがいません」と嘆く声をよく聞くのですが、ロールモデル探しに明け暮れていると一生が終わっちゃいますよ。青い鳥はいません。むしろ、一人に憧れを抱くと、その人が自分の期待と違う行動を取ったときに裏切られたような気持ちになってしまうんです。他人に自分の希望を託すのはやめて、自分なりのモデルを描くほうがいい。私もいつも、誰かの後追いではなく、自分なりの「こうありたい」という像を描くようにしています。

ゼミ生Cさん 私は高校生まで専業主婦志望だったのですが、主婦だった母の生き方に疑問を感じて、結婚や出産をした後も「働きたい」と思うようになりました。ですが、女性が長く仕事を続けることに関して、いろいろな人のさまざまな意見を聞いているうちに、何だかよく分からなくなってしまって……。何を目指したらいいのか、迷っています

「結婚や出産をしても、長く働き続けたい――。でも、いろんな人の意見を聞いているうちに、何を目指していいか分からなくなってしまいます」
「結婚や出産をしても、長く働き続けたい――。でも、いろんな人の意見を聞いているうちに、何を目指していいか分からなくなってしまいます」

浜田 生き方は人それぞれだから、子どもが大好きな人は子育てに専念してもいいと思う。でも、私の場合は、仕事で得られる達成感を一度味わってしまってから、もう手放せなくなってしまったんですよね。自分がやった仕事を通じて、誰かが喜んでくれる。この醍醐味はやっぱり仕事以外では味わえないな、というのが私の実感です。

 「好きなことが見つかりません」という悩みもよく聞きます。それは当然で、好きなことはそう簡単には見つかりません。だから「苦手なことはしない」くらいの始め方でいい。実は私も、「書く仕事」はとても苦手で、上司から怒られ続けていたんです。大げさでなく、新人時代に私が書く原稿は、デスク(記者が書いた原稿をチェックする人)がハサミで切って、順番を入れ替えていたくらい。

 ですがある時、『週刊朝日』で大好きだった作家の林真理子さんの連載が始まることが決まって、自ら「立ち上げから担当させてください!」と手を挙げたんですね。挑戦してみると、意外と企画側の編集者の仕事は向いていたことが分かって、その連載は25年以上続く人気連載になっています。管理職も「やってみたら向いていた」という感覚です。

 つまり、思わぬきっかけで得意な仕事が見つかる可能性は十分にあると思います。「食わず嫌い」になるともったいないので、「あなたに任せたい」と言われた仕事はトライしてみたほうがいいですよ。他人の評価のほうが向き不向きを的確に捉えている場合も多々ありますしね。