仕事と子育て… 両立させるには何が大切?

ゼミ生Dさん 沖縄の久米島出身です。故郷では、保育園に入れなくても地域で子育てするのが当たり前の環境だったのに、東京での子育てがあまりに過酷に見えて、将来が怖いです。浜田さんも、子育てとの両立で葛藤もあったそうですね。今後、子育てしやすい世の中になっていくと思いますか? ご経験も踏まえて教えてください。

浜田 私の娘は今12歳ですが、12年前と今とでは職場環境は格段によくなっていると思います。全労働人口の約半数は女性になっている今、政府も環境を整える政策を進めていくことは間違いないです。

 でも、会社や国に委ねるよりも大事なのは、自分で自分がやりやすい環境を整えていくことじゃないかな。私の場合は、親を呼び寄せるという方法を選び、後輩には「同じことはできません」と言われてしまったのだけど、近所にお互いに助け合えるママ友をつくったり、シッターさんと連携したりして、周りを上手に頼ることも大切。そして、夫の教育。夫がいかに育児に関わるか。わが家の場合は、私が育休中にノイローゼになりかけたので、夫に「働きたい」と訴えて、夫にも育休を3カ月取ってもらったんです。その3カ月のおかげで娘は父親に懐いてくれたし、その後も夫は育児に深く関わるようになりました。

 娘自身は今反抗期なので、少し寂しいし、「なんでママは家にいないの」と言われると、チクッと胸が痛くなることはよくあります。けれど、「いつか分かってくれればいい」と思うしかない。だって娘が成人する頃には、ますます女性も働く時代になっているはずだから。「あの時にママが家にいなかったのはなぜなのか」という理由を、いつかきっと彼女も理解してくれるはずだし、一緒に話せる日が来ると信じています。

ゼミ生Eさん 結婚や出産といったライフイベントを経ても満足度の高いキャリアを築いていくために、どういうスキルを身に付けるべきですか?

浜田 「この人がいなくなったら困る」と周りに思わせるようになること。一時的なブランクが生じたとしても、「また必ず戻ってきてね」と言ってもらえる存在になれること。

 同時に、自分が働きやすい職場を積極的に選んだり、つくっていったりする努力は必要ですね。上司も要望に対してはきちんと考えてくれるはずなので、「私はこういう働き方だったら、ここまで成果を出せます」という示し方をするといい。具体的に働き方を提示して相談する。自分にとって働きやすいスタイルを上司と組み立てていく交渉力こそ、身に付けるべきスキルかもしれないですね。

ゼミ生Fさん 私は今、社会人です。現在、休職中でまもなく復帰予定です。オーバーワークで体を壊してしまったのが休職の理由ですが、これから復帰するに当たって、どんな心構えを持つべきか、アドバイスをお願いします

たくさんの学生が、浜田さんのアドバイスに耳を傾けていました
たくさんの学生が、浜田さんのアドバイスに耳を傾けていました

浜田 私も抱え込み型なので、よく分かります。女性は男性に比べて「任せ下手」の傾向が強いような気がしますから、意識的に優先順位をつけて、「自分にしかできない仕事」以外は積極的に周りと協力したり、お願いしたりする練習をしていくといいですね。

 最初は不安かもしれないけれど、不得意なことは人に任せたほうがうまくいくし、皆のスキル全体が高まるほうが組織にとってもメリットになる。周りに任せることで、自分もラクになる上に、周囲のためにもなる、と発想を転換することから始めてみてください。チームワークのスキルを鍛えることは、将来のキャリアに必ずプラスに働きますよ。


 キャリアのスタート地点に立った時、見渡す先には「結婚」「出産・子育て」「親の介護」など、いくつもの不安の種がぼんやりと浮かぶもの。目の前を走る先輩たちの姿を見ても「私にはできそうにない」と遠くに感じられ、途方に暮れてしまう――。キャリアの大先輩である浜田さんにモヤモヤをぶつけた女性たちの表情は、どこかスッキリと晴れやかに。「自分らしいモデルをつくればいい。『こうあるべき』にとらわれないで」というメッセージに、背中を押された女性は多かったようです。

取材・文/宮本恵理子 写真/岡村紘子 構成/浜田寛子(日経doors編集部)