「何とかなる」は偽ポジティブ、今の自分を受け止める

 ブレークスルーを果たした勝さんは、六本木店を軌道に乗せ、2018年に、日本人デザイナーとコラボレーションする形でミラノコレクションに出展を果たしました。「参加できたのは奇跡」と感動する一方で、「これまで真剣にコツコツやってきたし、継続してきたからこそ今がある」と、確固たる自信も感じたそう。

 「目標に向かって進んでいるとき、『何とかなる』ではダメ。ポジティブってそういうことじゃない。リスクや無理だと思うことにも真剣に向き合って受け止め、その上で努力をするのが本当にポジティブな人。六本木店を出すとき、事業計画上は厳しい数字でしたけど、私の心は『やりたい』と言っていた。結局、頭で考えたことは、感じたことを超えられない。人生で大切なのは『自分の心に正直に生きること』だと思う」

 「今、夢を追いかけているのが、何より楽しい」とほほ笑む勝さん。男性社会である縫製業界において女性テーラーとして独立したことで、レディースオーダースーツを生み出せたこともうれしいと語ります。オーダースーツはもともと男性用として高級生地を使って仕立てられていました。それなのに女性用スーツはオーダーを受けている店すらほとんどありません。女性が自信を持って着こなせるオーダースーツを提供し、働く女性に最高のパフォーマンスを発揮してもらうことで、社会にも変化が訪れるのではないかと考えています。

 「『夢』って最初に見つけるものではなく、目の前のことに本気で取り組んだ先にあるものだと思います。Re.museを『100年続く一流ブランドにする』と決めたのは、がむしゃらに仕事をする中で、徐々にその気持ちが固まってきたから。何かを懸命にやっていれば、必ず誰かの役に立っているはずだし、それがやりがいになる瞬間が訪れる。そうして、「やりがい」から「やりたい」に変わって、「夢」になる。『成功』は挑戦し続けたことの結果なんです」

 ところで、ある大学で、勝さんが講演を行った後、参加していた女子大生から「あなたにしかできないことって何ですか?」と聞かれたそうです。

 「muse 代表取締役・勝友美」――勝さんは、女子大生に対して、こう答えました。そう、唯一無二の女性テイラーとして「100年続くブランドをつくる」ことができるのは、他でもない自分自身にしかできないことだからです。

 「経営者だろうが、組織に属していようが、まず自分の価値を提供できるように何事も全力で取り組むことが大切。そうすれば『代わりのきかない女性』として、自分だけの人生を楽しめるはず。そんな女性がもっと増えるといいなと思っています」

「自分の価値を提供できれば『代わりのきかない女性』になれると思います」
「自分の価値を提供できれば『代わりのきかない女性』になれると思います」

取材・文/高橋奈巳(日経doors編集部) 写真/清水知恵子

勝友美(かつ・ともみ)
muse 代表取締役
勝友美 短大卒業後、アパレルメーカーでトップ販売員として活躍後、海外向けポータルサイトでモデル・スタイリストを務め、オーダースーツ業界に転職。2013年、日本初の女性テーラーとして、大阪・淀屋橋で「musestylelab」(現・Re.muse)を創業。2016年、2店舗目となる六本木店を開店。2018年2月、日本人有名デザイナーとコラボレーションし、業界初のミラノコレクション出場を果たす。