東京・六本木にあるオーダーメイドスーツ専門店「Re.muse/レ・ミューズ」を運営する勝友美さん。着る人を美しく見せる採寸・補正技術、国内最高峰の縫製技術によってクオリティーの高いスーツを作り続けています。「100年先まで愛されるブランドをつくる」と心に決め、ひたむきに挑戦を続ける勝さんの「夢の育て方」とは?

「女性が店を出す」ことで向けられた「冷たい目線」

 「代わりのきかない女性になる」という決意を話してくれた勝さん。現在に至るまで、波乱万丈の日々を過ごしてきました。勝さんが「Re.muse」を立ち上げたのは、自分の縫製知識や採寸技術に確信を得た28歳のとき。しかし、創業時の顧客はゼロ。「テーラー=男性」というイメージが根強いこともあり、「どうせ誰かに援助してもらったんでしょ」という冷たい視線を向けられることもありました。お金もなく、コネもない。まさに「裸一貫」からのスタートでした。

 「父は私が25歳のときに他界、母も高齢で、とても頼ることはできませんでした。開店資金の一部にしたのは、実は自分が事故に遭ったときの保険金なんです(笑)。スーツや夢よりも資金の話ばかり聞かれたとき、女性の起業に対しては『誰かの力を貸りている』という固定観念を持っている人が多いのだな、と感じました。ならば、自分が『本気で人生を懸けてブランドをつくっている』ことを証明するには、言葉ではなく結果で示していくしかないと思ったんです」

 積極的に交流会に参加し、名刺交換した相手にひたすら電話営業を続ける日々。1日100人に電話をしても、実際に来店するのは3人ほど。それでもなかなかオーダーに至らず、心が折れそうになったと勝さんは話します。オーダーが入っても、採寸が続いて営業に出られず、翌月は売り上げが低迷。しかも高額なオーダースーツは毎月購入する必要がないため、新規顧客を獲得し続ける必要がありました。テーラー・営業・経営者の3足のわらじを履き、当時は寝る間もないほど。それでも、勝さんが大切にしていたのは「自分のポリシーは絶対に曲げないこと」でした。

 「経営者の方に『社員の分もスーツを作ってあげるから会社に採寸に来て』と言われても、お断りしました。営業的には行ったほうがいいのかもしれませんが、迎合してはいけない。私が目指しているのは『訪れることに価値のあるお店』だから

「ずっと、『訪れることに価値のあるお店』でありたい」

私は本気、多数派が憧れる平凡な夢は手放す

 勝さんのこうしたスーツ作りへの姿勢とお客様と向き合って作るクオリティーの高いスーツが評判を呼び、2年後には、関係者から東京進出を嘱望されるまでに成長を遂げます。2016年、東京・六本木に2店舗目をオープン。この頃には「100年先まで愛される一流ブランドになりたい」という気持ちが固まっていました。

 夢は大きく。しかし、ここで、不安と恐怖もやって来ました。「年齢的にも、結婚して家庭を持つ人が増え、キャリアを積んで管理職になる人もいる。なのに私は東京に顧客もいない、彼氏もいない、お金もない。そして『一流ブランドになる』という私の夢を信じてくれる人もいない」――世間の視線がまだ突き刺さることがありました。

 勝さんはどのように心の折り合いを付けたのでしょうか。「ふと自分の子ども時代を思い出しました。そうだ、私は小さいときから、自分の力でどんなことも乗り越えてきたじゃない!」

 大人になると、いつの間にか世間の価値観に影響された自分の価値観を持ってしまいます。「皆が憧れるモノやコト、例えば、大企業、収入、恋人、結婚、家庭、ブランド品……とか、本来自分が持っていないものにこだわり出す。でもそれは本当に自分の心の中にありますか。思い込みを手放し、心の中に残っているものこそが本当の自分の夢や思いなんだと気づいたとき、無敵になりました