一人の作家としての存在に目を向けてもらえるように

 『21世紀の女の子』のプロジェクトが始まったのは2017年12月に遡る。20代から30代前半までの女性監督14人に山戸さんが参加を呼び掛けた。最後の一人は公募で集まった200人から選抜した。映画のテーマは、「自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーがゆらいだ瞬間が映っていること」。このテーマを選んだ理由は二つあると、山戸さんは語る。

 「一つ目の理由は、社会に対して影響力を持つテーマにしたかったこと。そのためには、挑戦的に問題提起できるようなテーマを掲げる必要があると構想しました」

 女性は社会から、「清らかさ」や「沈黙」を求められることが多い、と山戸さんは指摘する。

 「そのイメージを壊す方法として、これまで描かれなかった痛みや弱さ、そして表現する喜びと力強さを分かち合うために、自分自身の意志を貫きながらも、怒りやネガティブな言葉を起源にせず、『希望を感じるポジティブなトライ』によって塗り替えてゆこうと考えました」

 二つ目の理由は、「作家性」を「女性性」として評価されないようにするため。

 「女性が作品を発表した際に、『女性監督ならではの感性』『女性ならではの視点』という常套句で評論される現状がいまだあります。しかし、監督には作家としてもっと深く見つめられるべき部分があるのです。それは、『女性性』ではなく、『作家性』です。『女性だから』という語りを無効化し、一人の作家としての存在に目を向けてもらえるように、その素材がよりはっきりと意識されるテーマを選びました」

 15人の新鋭監督の個性が表現されているこの映画プロジェクトが生まれたきっかけを聞いた。

 「ジェンダーギャップという観点では、これまでなぜか語られにくかった日本の映画界において、その現状は圧倒的にビハインドだと実感していたからです」

 例えば、ある映画館で上映中の作品のうち、女性が監督した作品はおそらく1本あるかないか。「つまり、女性が監督として活躍できるフィールドは決して広くない」と山戸さん。

 「ハリウッドでもおよそ90%以上の映画が男性監督の手によるもので、女性の作り手にもっとフェアな機会をというムーブメントが起こっています。圧倒的な性差のある状況下では、空気に迎合した作品が優先して残される構造が生まれやすくなります」