「女性同士は助け合う」という神話を作っていける
「私たちの世代は、上の世代の努力のおかげで、女性の多様な生き方が認められてしかるべきだという大前提の上に立っている」と山戸さんは指摘する。
「そして、そうした言葉を実像に変えてゆくことこそ、今問われています。言葉だけではなく、実際に映画の世界に生きる女性のプレイヤーを増やす必要があります。プレイヤーの属性が増えれば、より多くの対話が生まれれば、多様な立場の人にとって、働きやすい仕組みへと変えやすくなるはずです」
そのために、今を生きるdoors世代たちにできることは、「目の前の世界をよくしていくことだと思う」と山戸さん。山戸さんにはそう実感したエピソードがある。映画の世界に入って間もない頃、ある作品の手伝いに行った時のことだ。
その現場の女性スタッフが一番年下で何もできない山戸さんにこの上なく優しくしてくれた。山戸さんが「何もできない私にこんなに優しくしてくださって、ごめんなさい」と告げたところ、「女性が少ない映画の世界では女性同士が助け合わないといけないのだから、当たり前だよ」と返されたという。
「目の前の女性に対して、ネガティブな感情を持ってしまうのではなく、ポジティブな愛情を持って接し、助け合う。そうすることで、今自分が存在する場所での、お互いの生きやすさは大きく変えられるはずです」
働く私たちが肝に銘じたい言葉でもある。
山戸さんは「女性同士は、足を引っ張り合うもの」という古い神話はもはや作り変えられてほしいという。
「女性同士は、苦しければ苦しいほどに助け合ってしまう生き物で、どうしたって背中を押し合える存在なのだという、新しい神話に作り変えていきたいと願っています。そのために、映画の世界からアプローチできることは、諦めずに続けたい。願いによって編まれたフィクションが、このたった今、自分自身の生き方を選択しようとしている女性に対して、新しい対話を呼び覚ます物語として感じてもらえるように、映画界から、そういう作品を贈り続けたいです」
取材/小田舞子(日経doors編集部) 文/流石香織 写真/稲垣純也