じっくりと、自分で自分を育てていこう

 再就職したファミリー向けマーケティング企業では、思い描いていた通りの仕事に取り組めたという杉山さん。子どもを持つことで、ライフスタイルが大きく変わるファミリー層のニーズはあらゆる分野に潜在しており、子ども用品メーカーをはじめ、車、住宅、習い事、保険、食品、アプリなど、さまざまな企業にマーケティングやプロモーション企画を提案できるのが楽しくて仕方なかったそう。ところが、2年後、地方にある本社の方針で事業縮小が決定、東京の全社員が退職を余儀なくされました。

 「やっとつかんだ仕事、でもリストラ。たとえ転落しても、この仕事は続けたいという気持ちが強かったです。でも、運よく転職先が見つかっても、この仕事を続けられるかどうかは未知数。悩んでいた時、ある人から『あなたが独立するなら、一緒に仕事をしたい』と言ってもらえたんです。『あ、起業すれば、私はこの仕事を続けられる』と気付いたら、目の前のモヤモヤがスーッと晴れていきました」

 こうしてHITOMINAを設立した杉山さん。企画したイベントの集客数や会社の口座残高の激減に眠れない夜もありましたが、「起業のよさは、やりたいことにすぐ着手できること」と笑顔で語ります。独立後、それまで営業用として身に着けていたスーツを脱ぎ、好きな服で仕事をし、勤務時間も自分で決められるようになった時、「働き方も自由でいいんだ」と実感したそうです。

 「『仕事をする』ということは、働き方や雇用形態の問題ではなく、自分が世の中に『どんなバリューを提供できるか』」だという杉山さんは、人の喜ぶ姿を見ることが原動力になっているそうです。

 「自分について考えると、人より自信があることは今もない……です。ただ、色々失敗を重ねて、『自分のこんなところが人の役に立っているのかな』とようやく『自分らしさ』を見つけることができた気がします。20代の頃は、人と比べたり、羨んだりすることも多く、日々の業務に追われて、自分は成長していない……と焦った時もありました」と振り返ります。

 自分の思い描いたキャリアが阻まれても、時には道に迷っても、新しいドアを開けてきた杉山さん。最後に今を生きるdoors世代に向け、メッセージをくれました。

 「doors世代は、ストレートにゴールに行きたいと思いがちですが、休んだり、遠回りしても、前向きな気持ちさえ忘れなければ、自然と次の道が開けたりするので大丈夫(笑)。最初から『自分らしさ』なんて分からなくても、失敗しても、またチャレンジしていけば、自分で自分を育てることができると思います!」

「特技は空手。新しいドアは力強く開けていくべき!」
「特技は空手。新しいドアは力強く開けていくべき!」

取材・文/高橋奈巳(日経doors編集部) 写真/清水知恵子