1000時間の勉強を課して大学へ

 金井さんは4年制大学への編入を視野に、半年間、授業などを除く1000時間の学習を自らに課す。スエット姿で通学し、そのまま学校が閉まるまで勉強に打ち込んだ。

 ここで最初の恩人に出会う。金井さんがイスを並べ教室で仮眠を取っているところを目撃した、学長その人だった。学長は、「あなたに合いそうな分野がある」と金井さんに法政大学キャリアデザイン学部教授の宮城まり子氏を紹介した。第2の恩人だ。

 親の「今から大学に行けるはずがない」という見方を、見事に裏切った。合格は数十人のうち金井さんだけという狭き門だった。

 第2の恩人である宮城氏との出会いが、金井さんのその後のキャリアにつながる。宮城氏の指導の下、人の生き方や働き方に不可欠なキャリア設計・形成などを体系的に学んだ。就職活動の結果、行きたくてたまらなかったリクルートキャリアに内定を得た。

「就活の時に、リクルートキャリアの感触が悪くて、人事担当者にアプローチしました。ノート1冊に、自分がいかに貢献できるかを子細に分析して提出しました。本当に大好きな会社です」
「就活の時に、リクルートキャリアの感触が悪くて、人事担当者にアプローチしました。ノート1冊に、自分がいかに貢献できるかを子細に分析して提出しました。本当に大好きな会社です」

「この人のためなら、自分を変えよう」

 リクルートキャリアで出会った上司が、金井さんの3人目の恩人だ。金井さんに顧客との向き合い方を徹底的にたたき込んだ。

 営業職として大阪に配属された金井さんの仕事内容は、契約企業に転職見込みの人を紹介し、その人が入社を決めると売り上げが計上されるというもの。だがその部署は、金井さんの給料より低い水準の契約社員たちが多くいた。とはいえ、経験が豊富で優秀な人たちと、売り上げを常に比較される。あまり貢献できずに1年が過ぎた。

 2年目になり、新たな上司が着任。売り上げが出せない金井さんのため、「指導時間」が毎日設けられた。金井さんは担当していた顧客企業約150社のうち、7割くらいに苦手意識を持っていた。

 なぜ苦手意識を持ったのか。「担当者に厳しい言葉をかけられたとか、すぐに人を紹介できないことなどを気にしていました。クレームになると自分の弱さが分かってしまうじゃないですか。怖かったんです」

 それを知った上司は、金井さんに「本当にお客様のためか。好きではない顧客こそ、今期は徹底的に訪問しなさい」と厳命する。上司は毎日、金井さんが出すメール全部と、仕事の進捗度を逐一チェックした。

 上司に言われた通り、3カ月間、ひたすら苦手な顧客企業を回った。

 金井さんに対し、期待をかけていたからこそ、成績の出せない状態が歯がゆかったのだろう。アドバイスをしながら上司は涙を見せた。その涙を見て、泣いた。トイレに駆け込んだことも一度や二度ではない。すると上司は、そのたびに同僚に金井さんを連れ戻すよう頼む。「泣く時間があるなら顧客に連絡しろ」と怒られた。真剣勝負だと、分かっていた。