サービス契約のために1000店舗に飛び込み営業

 まずは副業としてTABETEのサービス開発を進めることにした。約1年後のサービススタートまでに、飲食店100店と契約することを目標に営業活動を始めた。本業でも飲食店の営業を経験していたので、多少の自信はあった。だが、そんな自信はあっけなく喪失した。営業活動は思うように進まなかった。サービスがなかなか受け入れられなかったのだ。

 「これまで日本ではフードロスに関するサービスがほとんど無かったので、『余ってしまいそうな料理を誰かに食べてもらえる仕組みです』と言ってなかなか理解してもらえず、拒否されることがほとんど。『帰れ』と怒鳴られたこともあります。結果的に1000店舗近くお店を回りました」

 昼は本業、夜はTABETEの事業拡大のために、休みなく働いた。忙しさのあまり自宅に戻らず、事務所に泊まり込んだことも1度や2度ではない。当然、家族はかつて大病を患った篠田さんの体調を心配した。ただ、当の篠田さんは「やりがいを感じていたので、全くつらくなかった」と振り返る。

 地道に営業活動を続けた結果、少しずつ事業の理念に共感してくれる店舗が増えていった。2018年4月のサービススタート時には念願だった100店舗の契約にこぎつけた。

 TABETEのサービスが本格的に始動したことを目の当たりにした篠田さんにも変化が訪れた。仕事を一本に絞り、TABETEに全力を尽くすことにしたのだ。当然、生活のことを考え、二足のわらじを履き続ける選択肢も頭をよぎった。「迷いに迷いました。もしこのサービスがうまくいかなかったら、入社1年足らずで退職した血迷った人になってしまうなと」。それでも、TABETEに100%集中したのは、この新たなサービスを育てたい気持ちが抑え切れなかったからだ。「自分がやりたいことは目の前に広がっている。やりがいもあるし、楽しい。これに懸けないのはおかしいと決断しました」

 TABETEに専念することで年収は半分以下になったが後悔はしていない。個人店だけでなく、大手外食チェーンからも話がくるようになるなど事業も軌道に乗りつつあり、やりたいと強く願ったことを実現できている環境を幸せに感じているという。振り返ってみて、自分の思いをかなえるためには、「周囲に発信することが何より重要でした」と篠田さんは言う。「私はツイッターで自分の思いをつぶやいていたからこそ、CEOの川越に出会って、目標に一気に近づいた。やりたいことがあったら、周囲にその考えを伝えて、どんな小さな一歩でもいいから動き出すことが大切だと思います」

取材・文/飯泉 梓 写真/稲垣純也

篠田沙織(しのだ・さおり)
コークッキングCOO
篠田沙織 大学卒業後、2017年に大手グルメサイトに就職するも、コークッキングとのダブルワークを始める。2018年4月にコークッキングに専念する