5月31日に公開される映画『さよなら くちびる』は、路上から始めてライブハウスを埋めるまでの人気を獲得したデュオ「ハルレオ」の軌跡を描いた青春ムービー。奇跡の音楽映画といわれるこの作品でダブル主演を務めた小松菜奈さんと門脇麦さん、挿入歌を提供したあいみょんさんに、撮影秘話や仕事に対する思い、自身が壁と感じたことやその乗り越え方を聞きました。同世代の3人はすっかり意気投合し、いろいろな話を語ってくれました。

うまくいかないときこそ可能性を信じる

――映画のなかでは、壁にぶつかって苦しむ20代の姿がリアルに描かれていました。みなさんは今までどんな壁にぶつかり、どのようにして乗り越えてきましたか?

あいみょんさん(以下、あいみょん) 私の場合は、まさに映画のなかで描かれているのと同じ壁がありました。4年前の話ですが、100人くらい入れるライブハウスに来てくれたお客さんは2人だけということもありました。来客が少なすぎて、会場費も自分たちが支払わなければならなかった。あるライブハウスでは店長に「うちは10人は呼ばなあかんから」と言われたことも。「人のお客さんに頼るな。対バン(共演)相手のお客さんが来てくれるからって甘えるな。努力しろ」と。とても悔しかったですね。

 でもお客さんを呼ぶためにどう努力すればいいのか分からず、悩みました。ただ、曲を作り続けるしかない、曲を作れば何かにつながると、とにかくひたすら作曲作業に没頭しました。その時に作ったうちの1曲を友人がYouTubeにアップしてくれて、それをきっかけにインディーズデビューが決まり、その1年後にはメジャーレーベルにも加入できました。

 ただデビュー後も結構大変でした。2年前まで渋谷のTSUTAYAの前で路上ライブをしたり、マネージャーさんと一緒にSNSでライブ配信したりと。路上ライブでは「今日はラッパーの人たちがラップバトルやっているからやめよう」と帰ったこともありますよ(笑)。

――なかなかうまくいかない中、どうやってご自身を奮い立たせたのでしょう。

あいみょん 「自分には絶対才能がある」って思っていました。表現者はナルシストじゃないとやっていけないと思うんです。自分が絶対に一番いい演技をしている。自分が一番いい曲を作っているって思わないともたない。今でも、レコーディング中、みんなに引かれるくらい自分のことを褒めています。口に出して「めっちゃいい曲」とか「すごいいい曲」、「これは売れる」とかずっと言っています。それに言霊ってあると思うので、プラスの言葉をどんどん発しています。

挫折や病気…すべてのことに意味がある

――門脇さんはいかがでしょうか。過去にバレリーナを目指していたが挫折された経験や、生死をさまようほどの大病を患ったご経験もあると聞きました。

門脇麦さん(以下、門脇) そういう経験によって、仕事に対する姿勢が変わったと思います。ものの見方を変えないと乗り越えられない状況になる。あの時はすごく大変だったけれど、病気など大きな出来事がなかったら今はない。全部の出来事に意味はあると思っています。

「過去の壁があってこそが今の自分がある」と門脇さん
「過去の壁があってこそが今の自分がある」と門脇さん

 自分の手に負えない状況になって初めて「キャパオーバーしていたいんだな」と気づくことが多くて。渦中にいると感覚が麻痺していて分からなくなってしまうけれど、壁によって気づくことができる。その時間が「なぜキャパオーバーしてしまったのか」という原因や「これからも仕事を続けていくためにどんなことが必要か」ということを考える機会になると思っていて。

 でも結局毎回行き着くのは、「仕事を楽しむことがすべてだ」ということです。表現する仕事は目に見える結果には繋がりづらいし、だからといって結果にとらわれすぎても良いものは生まれない。何のために自分は頑張っているんだろうとくじけそうになったときに、「好きな仕事だから」という純粋な気持ちを思い出すと、自分自身も納得しやすい。日々の忙しさのなかでつい、忘れてしまうのですが、壁を感じるたびにその気持ちを振り返るようにしています。