2019年4月10日にアメリカの天文学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に6本の論文が掲載され、おとめ座銀河団の中心に位置するブラックホールの撮影成功が発表されました。発表したのはイベント・ホライズン・テレスコープ・プロジェクトという国際的な研究チーム。メンバーは、世界中の研究者、約200人。その日本チーム代表・本間希樹さんが所長を務める国立天文台・水沢VLBI観測所のもと、撮影成功を支えた女性研究者・田崎文得さんにSTEM分野におけるキャリアストーリーを聞きました。

田崎文得

たざき・ふみえ

研究者

水沢VLBI観測所 特任研究員

千葉県生まれ。 京都大学大学院理学研究科で学位(博士)を取得。学生時代はX線衛星を使って、活動銀河核を研究。現在は、水沢VLBI観測所の特任研究員となり、国際プロジェクト 「イベント・ホライズン・テレスコープ」の一員としてデータ解析や広報業務の取りまとめを行っている。一児の母。

幼い頃、祖母や母に草花の名前を教わったのが科学との出合い

国立天文台・水沢VLBI観測所の田崎文得さん。後ろに見えるのは「20m電波望遠鏡」
国立天文台・水沢VLBI観測所の田崎文得さん。後ろに見えるのは「20m電波望遠鏡」

 ブラックホール撮影に貢献した国立天文台・水沢VLBI観測所長・本間希樹さんに、田崎さんへの取材を打診するメールを送ると、「子育てをしながら、データ解析でこのプロジェクトで活躍し、広報面でも多いに貢献してくれました。ぜひ取材を」という返事がすぐ届いた。

 岩手県奥州市水沢の観測所を訪ねた。ふんわりと柔らかい雰囲気の田崎さんが階段を駆け下りてきた。

 田崎さんの科学に関する最初の思い出は、幼い頃、母や祖母に連れられて散歩をしながら草花の名前を教わったときに遡る。天体も好きで、天体望遠鏡を買ってほしいと親にねだったこともあった。「『高額だからダメ。顕微鏡なら買ってあげる』と言われてあきらめたのですが、今考えれば顕微鏡だけでも買ってもらっておけばよかった」と笑う。

 小学2年生の頃、友達が通っていたそろばん教室に週2日で通い始め、「10桁同士など、桁の大きい数字を使った掛け算や割り算がとにかく楽しくて」と語る。

 小・中学校は、地元・千葉県茂原市にある公立校に進む。高校も地元の公立校に通い、常に成績はトップクラス。学問に対する憧れが強く、一浪して京都大学・理学部に進学する。最初は数学を志した。「でも、数学って高校まではパズルのように論理的ですが、大学に進むと、まるで哲学のような領域に入っていくんですよね」。そう感じた田崎さんは天文学や海洋地質学への転向を考え始めた

せっかくなら一番遠くて見にくい物を

 その中で、天文学を選んだ理由は「せっかく調べるなら、一番遠くて見にくい物を研究対象にしたい」「役に立つかどうかにかかわらず、興味のあるものを自由に学べそうなものに挑戦したい」という思いがあったから。

 「役立つかどうか分からないことを研究するという、基礎研究のベースがあってこそ、役立つものの研究、つまり発展研究の幅が広がると思うんです。だからこそ、私は基礎的な研究が必須だと考えています」

 大学4年生のとき、X線を使った「活動銀河中心核(異常に明るい銀河中心部の天体)の研究」を開始。その魅力にとりつかれ大学院へ。修士課程2年、博士課程3年を修了し、2014年3月に博士号を取得したが、その後待っていたのは、就職先探しの苦労だった。