就職先が見つからず、拾ってもらえたのは「最後の最後」

 「就職活動中、東京・三鷹市にある国立天文台で、まさに今回話題となるイベント・ホライズン・テレスコープ・プロジェクトの研究員公募を知りました」

 だが、残念ながら、当初狙っていた博士研究員(ポスドク)の枠は別の研究者の手に渡り、田崎さんは1日6時間勤務の研究支援員という職に就いた。しかし、半年後、その研究者が別の職場に移ったため、運良く田崎さんのポスドク就任が実現した。「本当に就職先がなくて、最後の最後でようやく拾ってもらえた、という感じでした」

 田崎さんはもとからブラックホールそのものに興味があったわけではない。「もともと興味があったのはX線。星空というと、空に星が瞬いているという静かな印象がありますが、X線を使って宇宙を見ると、正反対の光景が広がります。温度の高いガスのある場所が明るく光る。超新星残骸が見えることもある。こんなふうに、とても活発な姿が見えてくるんです」と目を輝かせる。

 国立天文台のプロジェクトではX線ではなく、電波を用いてのブラックホール撮影に挑戦することになった。その時点で、田崎さんは研究手段をX線から電波に転向することを迫られた。「X線でも、電波でも、新しい世界が見られることには変わりありません。そこは柔軟に対応しました」と振り返る。

世界中の科学者、約200人とブラックホールの撮影に成功した瞬間

 2017年、水沢VLBI観測所に移ってからも、ブラックホール撮影プロジェクトを進める日々が続いた。「当初、自分が在席している期間内にブラックホールの姿が見られるという確信はありませんでした」

 しかし、2017年には天候的にいい条件下で観測することに成功。そのデータを活用して世界中の研究者と協力し、2018年6月にブラックホールの画像を得ることができたときは、「心底ほっとした」と言う。

 ここで少し、ブラックホールの撮影はどのように行ったのかを解説してもらった。「ブラックホールが出している電波を受信し、そのデータを解析してブラックホールの画像を復元するという方法を取りました。世界中に散らばった4つのグループが別々にデータ解析を行い、出来上がった画像を確認した結果、無事、同じ画像が復元できました。その後もデータを補正するチームと画像化チームが何度もやり取りをして、画像の正確性を高めていきました」

 ブラックホールの撮影には成功したものの、プロジェクトが終了したわけではない。「いて座Aスターという天の川銀河の真ん中に位置するブラックホールを撮影する」「ブラックホールを動画で撮影する」「ブラックホールの静止画の解像度を向上させる」など課題は尽きない。「残念ながら、私のここでの任期は残り1年ですが、その後も、自由な研究を継続できる職場を得られるならばこのプロジェクトに関わり続けたいと思います」