「誰かにシェアしたい」クールなコンテンツを目指す

 現在はデンマークに留学中の能條さんは共同ブログを運営する友人たちに声を掛け、SNSなども活用しながらデンマーク、そして日本からの協力者を募った。すると100人近い賛同者が現れ、チームが立ち上がった。それからは日本とデンマークの時差を乗り越え、オンライン上でやり取りしながらコンテンツ作りを始めた。とりわけ力を注いだのは、若い人たちに政治や選挙を分かりやすく伝えるにはどうすればいいか、ということだった。

 「友人と話していて気付いたのは、選挙があることすら知らないという人がいたこと。政治に興味がなければ、選挙自体も視野に入ってこない。選挙の存在を知らせるにはどうすればいいのか。そこで思いついたのが、私たちの世代が情報を収集するツールとして最も身近なインスタグラムを利用することです。インスタグラムでは政治について語るアカウントが少なく、『政治をクールに伝える新しい存在』として受け入れてもらえると思いました

 クールな印象を与えるために、投稿のデザインにもこだわった。「友人と思わずシェアしたくなるようなかっこいいデザインを目指しました。プロのデザイナーに全面的に協力して頂き、テーマカラー、フォント、イラストを統一し、すっきりしたコンテンツにしました

デンマークでは学生同士の会話でも政治の話題が頻繁に出てくる
デンマークでは学生同士の会話でも政治の話題が頻繁に出てくる

 テーマカラーはブルーとオレンジ。各政党のテーマカラーと被らないようにすること、また、若い世代はまだ価値観が定まってないということを、二色を使って表現することにした。

 コンテンツの内容も、議論を繰り返して作り上げた。「そもそも自分が投票にいっても意味がないという人も一定数いると思います。そんな人にいきなり選挙の話をしても響かない。そこで『どうして投票しないといけないの』という理由を説明するコンテンツを作ることから始めました

 また「どの政党に投票すればいいのか」という疑問に答えるため、各政党や政策の話も盛り込むことにした。だが、その伝え方には苦労した。「それぞれの考えで投票に行ってほしいので中立であることはマストです。しかし『中立で伝える』ことが予想以上に難しかった。バイアスがかかっていない人がいないので、どうしても伝え手の意図が反映されてしまう。メンバーと何度も話し合って、『さまざまな人の意見をできるだけ紹介すること』を中立と定義して、そうなるように挑戦していきました

 こうして若い世代に一定の影響力を与えたものの、参院選の20代の投票率は35%に留まった。しかし能條さんはいちるの可能性を見いだしている。「これだけの短い期間で1万5000人のフォロワーがついたということは、若い世代も政治に無関心ではないということ。ただ、難しく分からなかったり、知る機会がなかったりするだけ。今後は今回の活動をきっかけに集まった同世代と一緒に、もっと政治が身近なものになるように取り組み続けたい」

取材・文/飯泉 梓(日経doors編集部) 写真/能條さん提供

修正履歴・本文中、慶応義塾大学3年生とあったのを4年生に変更いたしました(2019年8月26日)