順調にステップアップ…それでも転職を考えた理由は?

 藤本さんが転職を考えるようになった理由は、大きく分けて2つあるといいます。まず1つ目は、部下育成などに全力を注いだ分、マネジメントスキルを「得意な領域」にまで高めることはできましたが、今後も取り組んでいきたい「好きな仕事」とは違うと気づいたから。

 「課長を経験したことは勉強になりましたが、『部長を目指してみる?』という話が出たときに、『私は昇進という形でキャリアアップを図るのではなく、もっと違うことに挑戦したい』『やっぱり、現場仕事に戻りたい』という気持ちが湧いてきました。身に付けたマネジメントスキルを会社からは評価してもらいましたが、『マネジメント業務自体が好き』という感覚になれなかったので、このまま管理職を続けていても、自分の内面的な満足感を十分に得ることができないと感じたんです」

 「得意なこと」と「好きなこと」が一致すれば、モチベーション高く、ベストなパフォーマンスを発揮できる可能性は高まります。しかし、得意なことだからといって、それを好きになれるとは限りません。藤本さんはマネジメント経験を積んでいくうちに、「得意なこと」と「好きなこと」のズレをどう埋めればいいのか悩むようになったといいます。

「『マネジメント業務自体が好き』という感覚になれなかったので、このまま管理職を続けていても、自分の内面的な満足感を十分に得ることができないと感じました」
「『マネジメント業務自体が好き』という感覚になれなかったので、このまま管理職を続けていても、自分の内面的な満足感を十分に得ることができないと感じました」

「安定」が「不安」の原因に

 そして転職を考えるようになった理由の2つ目は、新卒入社から10年以上在籍していた会社だったため、仕事にも人間関係にも慣れ、自分にとって居心地のいい環境を維持できるようになったからだといいます。

 「社内の人間関係も安定していて、仕事も順調。収入面にも不満はないという状態が、課長になって3年が経過した頃に訪れました。居心地がよく安定した状態がベストだと思う人もいるかもしれませんが、私は逆に『安定』が『不安』の原因になってしまって。日々の仕事や経験に新しさを感じられない――つまり、自分にとってラクな状態が続くようになると、仕事的にも人間的にも成長が止まってしまうような気がして、『このままでいいのか』と焦りを感じ始めたんです」

 この不安と焦りを2年近く抱えながら、マネジメント業務を全うしてきた藤本さん。

 「新型コロナウイルスが流行する2020年の前までは、モヤモヤした気持ちを趣味の旅行で発散していましたが、コロナ禍になってからはそれもできなくなり、『このままでいいのか』『新しいことに挑戦したほうがいいのではないか』という気持ちから目をそらすことができなくなりました」

 しかし、周囲に転職を考えていることを相談すると、皆、口をそろえて反対したといいます。