「キャリアを重ねても、重ねても、きっと見えていない景色というのはそこらじゅうに転がっている。いつも、いろんな景色に目を向けられる自分でいたい」――。そう語るのは、テレビ朝日アナウンサーの小川彩佳さん。社会人として11年のキャリアを持つ小川さんに、doors読者へのメッセージを聞く当連載。初回は、取材時のエピソードと、担当編集者の想いを綴りました。

 「『君の名は。』に出てきそうな空ですね!」

 2018年11月下旬、午後3時ごろ。天を仰ぐと、薄い水色とピンクが混ざったような空に、うろこ雲が連なっていた。取材当日、屋外で撮影をしているときのことだった。彼女は、サッとスマホを取り出して、カシャ、カシャと、空の写真を撮り始めた。その姿は、「今、この瞬間を楽しまなくちゃ」というメッセージそのものだった。

 その「彼女」とは、小川彩佳さん。テレビ朝日のアナウンサーだ。2007年に入社した後、『サンデープロジェクト』や『スーパーJチャンネル』『報道ステーション』など数多くの人気報道番組で活躍してきた。テレビで見ていた人も多いだろう。2018年10月からはインターネット配信のAbemaTVで『AbemaPrime』というニュース番組のキャスターに就任。今度はPCやスマートフォンから視聴する報道番組の「顔」となった。地上波の番組とはひと味違う鋭い視点で、日々、時事問題と向き合っている。

 小川さんがアナウンサーになりたいと思ったきっかけは、米国・ミシガン州アナーバーという街で過ごした小学生時代にあるという。「私が通っていた学校には、いろんな国籍の生徒がいたんです。ですから、自然と日本文化を周りに伝える機会が多くありました。自分が『発信』することで、周りの人が日本文化や日本という国に興味を持ってくれることが、単純にうれしかった。周囲に『興味のタネ』をまいている感覚が楽しかったんですよね。その経験があったから、将来は伝える仕事に就きたいと考えていました」

 筆者(25歳・女性・社会人2年目)にとって、小川さんは「憧れの女性」そのものだった。いつも冷静で、そのまなざしから強い『意思』が伝わってきて、笑顔がすてきで……。テレビ越しからでも伝わってくる魅力は、実際にお会いしてから揺るぎないものに変わった。どんな質問に対しても、ゆっくりと、一つひとつ丁寧に言葉を紡いでいく姿は、報道番組でニュースを伝える姿にも重なった。

 インタビューに真剣に答える小川さんを前に、「これは、絶対に一人でも多くの同世代に読んでもらわなければ」と思った。


 この連載では、小川さんの仕事に対する姿勢、モットー、今後のキャリアの展望に加えて、社会に出て「駆け出し時期」であるdoors世代の女性たちに向けたメッセージなど、インタビューで紡いでくれた言葉を取り上げていく予定だ。目標に向かって走っていたあの頃、達成したときの歓喜、失敗したときの苦悩……。報道の世界で11年のキャリアを積んできた小川さんだからこその視点は、筆者も含め若手女性の読者の皆さんをきっと勇気づけてくれるだろう。月末には小川さんの連載がある――そう覚えて楽しみにしていてほしい。

テレビ朝日アナウンサー・小川彩佳さん。「小学生時代に経験した、他人へ『興味のタネをまく』、発信することの楽しさが、今の仕事の原点です」
テレビ朝日アナウンサー・小川彩佳さん。「小学生時代に経験した、他人へ『興味のタネをまく』、発信することの楽しさが、今の仕事の原点です」

 インタビュー取材の最後に、「日経doors」読者に向けたメッセージを尋ねると、小川さんは、ほほ笑んで答えた。

 「とにかく、目に映るすべてを楽しんでほしい。社会人になると、学生時代には出会わなかった人にも会えるし、知らない景色が広がっている。出会うすべてのものへの新鮮な気持ちや、『まっさらでいる』ということを大切にしたいですよね。キャリアを重ねても、重ねても、きっと見えていない景色というのはそこらじゅうに転がっていると思う。私自身も、そこにきちんと目を向けられる自分でいたいです

 楽しむことを忘れない。きっとそれは、どんな仕事をする人にとっても、大切なことかもしれない。

 取材を終え、地下鉄に乗った。いつもの風景と変わらないはずなのに、目の前が少し、明るく見えた。

文/浜田寛子(日経doors編集部) 写真/大槻純一