「伝えたいのに伝え方が分からない」の壁

―― 社会人になってから、仕事面でどのような壁にぶつかりましたか?

小川 2014年に過激派組織IS(イスラム国)にジャーナリストの後藤健二さんが拘束されたニュースを報道ステーションで取り上げた時が、一つの壁でした。当時、そのニュースがあまりにもショックで何も言えなくなってしまったんです。ぼうぜん自失になってしまい、そんな自分を心からふがいなく思いました。現場からのビデオメッセージを見た識者と古舘さんのやり取りを、固唾をのんで見守ることしかできなかった。

 どう振る舞えばいいのか分からず、「何のためにここに座っているんだろう」「何をしているんだろう」という思いを抱えて悶々としていました。

 そして、ニュースチャンネルAbemaNewsの帯番組「AbemaPrime」に出演している今も壁だらけです。議論が盛り上がったときに発言できなかったり、話が脱線してしまったときに引き戻せなかったり……。目の前に伝えるべき情報があるのに、何もできない無力な自分を目の当たりにした時が、一番大きな壁なのかもしれません。

「自分は何のためにここにいるんだろう…?」。そう悩んでいた時もあります
「自分は何のためにここにいるんだろう…?」。そう悩んでいた時もあります

「生身の人間が媒体である」という気付き

―― どうやってその壁を乗り越えたんですか?

小川 取材でお会いしたスポーツ選手の方からの一言が、私を救ってくれたんです。ボールやラケット、バット、シューズなど、スポーツ選手が使うツールは大切な仕事道具ですよね。でも、一番使いやすいツールをどれほど大切に扱っていても、壊れたり不具合が起きたりすることがあります。

 そんなとき、しっかりとメンテナンスされている二番目のツールにその方は救われるそうです。そのツールは、いわば「控え」の存在。「番組の中心的存在は別のメインキャスターかもしれないけれど、絶対的安心感のある『控え』のような存在がいるだけで、視聴者も救われているのではないか」と言われました。

 例えば、「報道ステーション」の場合、メインキャスターがいれば番組は成り立つのかもしれません。でも隣にサブキャスターがいることで、メインキャスターが落ち着いてニュースを伝えられますよね。「AbemaPrime」の場合、ニュースをかみ砕いて伝える識者の隣に私がいることで、視聴者の方々と同じ目線で質問を投げかけることができます。

 それ以降、アナウンサーは視聴者の気持ちを代弁する媒体でもあると考えるようになり、気持ちが楽になりました。常にすべてを完璧にやり遂げることはできないけれど、そんな自分もひっくるめて「生身の人間」である私がニュースを伝えることに意味があるのではないかと思っています。


 仕事の壁を乗り越えられたきっかけは、他者からの言葉だったという小川アナ。皆さんは、キャリアの壁にぶつかったとき、何を大切にしていますか? 今、仕事で悩んでいる人も、少し視点を広げて他者の言葉にも耳を傾けると、前に進むことができるかもしれませんね。

取材・文/華井由利奈 写真/大槻純一 構成/浜田寛子(日経doors編集部)