キャリアを躍進させるようなサポートをすべての社員たちに

 ポジションが上がり、組織を俯瞰して見るようになった頃、ふと気になった。「私は上司やチームに恵まれてここまで来れた。でも中には思うように働けず、悩んでいる女性もいるかもしれない」。当時は今に比べて女性が少数。女性たちの声を拾い上げ、会社に新しい制度を提案できればと考え、まずは金融部門のマネージャー以上の女性を集めてランチ会を開催した。

 そのことを上司に伝えると「いい活動だから、トップ・マネジメントにも伝えてごらん」と言われ、トップに提案すると「ぜひ進めてほしい」と言われた。こうして会社の支援を受け、女性のネットワーキング活動を開始。一部門から他部門、グループ会社へと拡大していった。その数年後、PwCのグローバル・ネットワーク全体でダイバーシティを重要な経営課題として位置づけ、推進していくことが決定。梅木さんはPwC Japanグループの推進リーダーに抜擢された。

 今やダイバーシティ推進の動きは多くの企業に広がっている。そして、いずれの企業も共通の壁にぶつかる。

 社内からは少なからず反発や疑問の声が上がるものだ。「本当に必要なのか」「それをやって業績は上がるのか」「忙しくて取り組む暇がない」「育児中の社員を支援すると、他の社員の負担が増す」――。実際、制度は整えたものの、現場の社員の意識改革が進まず、うまく運用できていない企業は多い。

 PwC Japanには、そうした壁をも乗り越える強みがあった。それは「トップが本気だった」ことだ。世の中の潮流に乗るために「実は気乗りしないが、仕方なくやる」という経営者も少なくないのが実情。しかし、PwC Japanの経営陣は、価値ある取り組みと認識し、推進の意志が固かった。梅木さんはその状況を活かそうと、施策の実施にあたって、多忙なトップに対しても遠慮なく全面協力を仰いだ。

「折に触れ、トップからメッセージを発信してもらいました。例えば、管理職以上のミーティングの場があれば、『経営課題の一つとして、ダイバーシティについても必ず一言メッセージを送ってください』と。推進を始めた当初には、管理職対象のダイバーシティ研修に毎回トップに同席していただいたこともありました。社員に向けた新年の挨拶の動画では、トップ自ら『イノベーションを起こしていくために、全社挙げてのダイバーシティ推進が必要』と語っていただいているのを見て、私自身トップの熱い本気度を感じて奮い立ちました」

 今では全社内に「ダイバーシティは必要」という意識が浸透している。今後は、理解するだけでなく一人ひとりが当事者意識を持って「実践」していけるよう、メッセージ発信やセミナー、ディスカッションの場を設けていく。例えばLGBT支援の一環として、「東京レインボープライド(※)」への協賛がある。梅木さんは参加しての感想をこう語る。「PwC Japanメンバーと一緒に6色のレインボーカラーのフラグを持って渋谷の街をパレードしたのは、私自身にとってすごく貴重な経験。LGBT当事者だけでなく、支援者であるアライ(※)の人々が想像を超えるほど大勢街にあふれていて、笑顔で手を振ってくれるのをこの目で見て、日本の社会が確実に変わってきているのを実感したし、LGBT支援のために自分にできることがあれば精一杯やろうと心から思いました。やはり参加することで、ダイバーシティは他人事では無い、私たち一人一人が自分事として取り組むべき課題なのだという意識が芽生えるんですね」

※「東京レインボープライド」=性的指向および性自認(SOGI=Sexual Orientation, Gender Identity)のいかんにかかわらず、すべての人が、より自分らしく誇りをもって、前向きに楽しく生きていくことができる社会の実現をめざす特定非営利活動法人およびイベントの総称。
※「アライ」=LGBTの当事者ではない人がLGBTを理解・支援する考え方、あるいはその立場を明確にしている人。

 「ビジネス人生は長い。どんな事情を抱えた人でも、長い目で見てキャリアをつくっていけばいい。道のりは長いからこそ、プライベートも充実していなければ、つらくなると思うんですよね。だからこそ、この取り組みをもっと進化させて、一人ひとりが自分らしく働き、自分らしく生活していけることを目指します。私自身、今が人生の折り返し地点。今からが私の人生だ、と思っていますから(笑)」

東京レインボープライド