AKBを指導して気づいた「言葉選び」の大切さ

 講演は、AKB48グループを指導したときの経験談に移ります。10代でアイドルデビューした若い女性への声掛けで気をつけたことは、「心に響く言葉に変換すること」でした。

 「『逃げるな、負けるな、諦めるな。前へ進め』というメッセージを伝えたいと思ったとき、10代の若者にそのまま言うとストレートに刺さりすぎてこの業界を辞めてしまうかもしれない、と感じました。そこで私は言葉を変換。『みんなの心には底力くんがいる。本当につらい時にだけ現れる底力くんに、もっともっと会いにいきなさい』と話しました。伝えたいメッセージがあるときは、相手の気持ちに寄り添って言葉を変えると響きやすくなります

 また、やる気のないメンバーに声を掛けるときには、常に冷静さを保つようにしました。

 「怒るのと叱るのは大きく違います。怒りは人間の四大感情の一つ。一方、叱るというのは相手に気づきを与えて成長を加速させるためのものです。後輩を指導する立場にいる人は、くれぐれも怒らず冷静に叱ってください」

特別ワーク「夢からの階段」でステップアップ

 最後に夏先生が教えてくれたのは、「夢からの階段」というワーク。階段状に書かれた線の一番上の部分に目標を書き、目標を達成するための手段を考えながら、階段を一段ずつ下に向かっていくように具体的な行動を書き出していきます。

 「私は日本一のダンサーになりたいと思っていたので、上から順に『多くの舞台に出る』『オーディションをたくさん受ける』『名刺を作って関係者に覚えてもらう』『インパクトのある名刺のデザインを考える』と細かく行動を書き出していました。階段をすべて埋めることができたら、一歩夢に近づいたと言えるでしょう」

「目の前の『壁』は目標から逆算すると階段の1つにしか過ぎません」
「目の前の『壁』は目標から逆算すると階段の1つにしか過ぎません」

 夏先生によると、普段私たちが目の前に立ちはだかる「壁」だと感じているものは、すべて足を踏み出して登るべき「ステップ」なのだそう。自分自身が小さいと巨大な壁のように見えますが、目標に向けて階段を描けた自分にとっては、目の前の壁は階段の1ステップになるのです。

 「目標を決めてアンテナを張っておくと、自然に潜在意識が働き、おのずと自分軸に近づきます。不条理なことも、うれしいことも、新しい出会いもあると思いますが、その時の感情や経験をすべて心に留めて前進すれば、セルフブランディングにつながっていきます」

 そして、「自ら発信していくことも忘れないで。しっかりと目線を定め、体全身からエネルギーを放った時、きっと何かが動き出します」というメッセージの締めくくりに元気の出る合言葉「目からビーム。手からパワー。毛穴からオーラ」を贈ってくれた夏先生。この言葉の唱和とともに、講演は幕を閉じました。

文/華井由利奈 写真/中村嘉昭 構成/浜田寛子(日経doors編集部)