人生の不確実性が下がり過ぎることに耐えられない

 前回お話しした通り、好きで入った会社を辞めるというのは非常に大きな決断で、退職するまでにはいろいろな葛藤がありました。でも結局、やりたいことをやりたいようにやりたいという気持ちには勝てません。

 こう言うと私は非常にリスク選好が高い人間なのかと思われるかもしれません。確かに、人生の先が見えてしまうことが非常に嫌いです。例えば若い頃にがむしゃらに働いているうちはいいのですが、「あぁこのまま新聞記者を続けて、何年後にキャップになって何年後にデスクになって、60歳か65歳で定年か……」と自分の人生が見えてしまうと途端に耐え難い気持ちになります。人生における不確実性が一定程度以下に下がると耐えられないのだと思っています。でもその中でも極力、予測できるリスクは抑えるようにしています。

 決して後先考えずに会社を飛び出しているわけではなく、最悪これで何とか生きていけるだろう、という算段を立てて保守的に決断しているつもりでいます。自分のやりたいことを実現するためのさまざまな選択肢を洗い出し、現状で考えられるさまざまな可能性を考慮して、そのそれぞれにさまざまなパターンを想定し、これならいけるという結論に至ったのがMBAでした。

 これまで経済紙で企業取材を経験してきたこと、さらに第一子の育児休業中に勉強して中小企業診断士の資格を取ったことが生かせる、もしくはマイナスにならず、かつ、海外で生活したい、留学したい、起業したい、というやりたいことを実現させられる、ベストな選択肢でした。

 その決断を後押しするために、また自分に覚悟を迫るために、ビジネススクールへ出願する前に会社を辞めることにしました。「背水の陣」が私には効果的なのです。2018年3月に退職し、半年ほど集中して勉強して秋から冬に出願し、2019年の9月に入学という計画を立てました。その間は中小企業診断士を開業して、もし合格できなかったら当面、診断士で頑張っていこうと思っていました。

ESADEの魅力は「起業家支援」

 ただ、実際に受験準備を始めたのはもう少し時間を遡ります。2017年秋から英語の勉強を始め、冬にGMATという、センター試験のMBA版のようなテストを受けました。ただ結果が全く芳しくなかったのであと半年は集中して勉強する時間が必要だと思った次第でした。

 志望校についてはESADE一択、というよりはバルセロナ一択でした。ビジネススクールを探してインターネットを見ていたある日、バルセロナにいい学校があることに気付き、その瞬間にバルセロナと恋に落ちました。学校はもちろん大事なのですが、それ以上に自分が住みたい場所、子どもを育てたい場所というのが何よりも重要な要素でした。調べてみると、MBAトップスクールと言える中で、バルセロナにはIESE(イエセ)とESADEの2校があり、多様性、カリキュラムのバランスのよさ、そして何より起業家支援に力を入れているというところでESADEが第一志望になりました。

 とても和やかな授業風景です。座席は学期ごとに変わりますが、各学期で自分の席は固定されています。私の場合、1学期は一番後ろの席で、2学期は一番前になりました。どちらも善しあしがありますが、一番前のほうが黒板が見やすく声も聴きやすいので思ったより気に入っています。

 バルセロナは大学卒業後の旅行中に通り掛かっただけなのでよく知りませんでした。ただ、前回もお話ししましたが、私のイメージは間違いなく「バルセロナの太陽と真っ青な空の下でビールを飲んだら、たいていのことはどうでもよくなるって!」です。もうバルセロナ以外は考えられませんでした。

 さて、そういうわけで退職を目前にしていた2018年3月下旬のことでした。ESADEの入学事務局でアジア大洋州担当のメアリーと連絡を取っているうちに、2018年9月入学に出願してみるだけしてみようかということになりました。現状の英語試験の点数、GMATの点数が足切り以下ではない点、たとえ不合格で翌年に出願したとしても今年の不合格の事実はマイナスにはならない点などで、とにかくやるだけやってみることにしました。