本当にやりたいことは一歩一歩でも進めていく

 さて、以上の書類を用意するのにどれくらい時間がかかるかというと、一般的には1~2年といわれているようです。ただ、実際に書類の取得にかかる時間でいえば、例えばGMATであれば受けた直後に結果は分かりますし、英語も試験によりますが1~2週間程度で結果が出ます。とはいえ、通常通り仕事をしながら準備を進め、すべてを目標以上の水準まで持っていくには、相当な時間がかかると言えるでしょう。

 「時間がない」というのはたくさんの人に共通することだと思います。そんなとき私は「優先順位が低い」と言い換えることにしています。「時間がない」からできないのではなくて、「優先順位が低い」からやらない、もしくは後回しにする。こう言い換えて違和感がなければそれでいいですし「そんなことはない!」と思うのであれば時間をつくるまでです。仕事に忙殺されているとあっという間に時間が過ぎていきますので、本当にやりたいことは一歩一歩でも、進めていけるといいのかなと思います。

 ここまでMBAについていろいろ話してきましたが、大切なことは「MBAは手段でしかない」ということだと考えています。これは人生におけるさまざまなものにも当てはまることだと思います。MBAは、人生を変える可能性を多分に秘めた、素晴らしい経験だと思います。入学前には思ってもみなかったような機会に接して、進路が180度変わることも珍しくないと思います。しかし、費用もとても高いです。また、MBAを取ればすべてがなんとかなる、というものでもありません。あくまで、自分の目標を達成するための一つの手段として、有効に活用できたら素晴らしいのではないかと思います。

あとがき
 今回は、日本人の同級生をご紹介したいと思います。五月琳子さん(28歳、写真左)は外資系製薬会社で5年半、営業や「ビジネスアナリティクス」という市場戦略の策定を支援する部門を経験した後にESADEにやって来ました。

 彼女はもともと、とても国際志向の強い人です。高校生の時に両親に「こんな学校があるよ」と教えてもらったことをきっかけに2年間、単身で英国に留学し、国際バカロレアの認定資格を取りました。「『なんとなくこういうルートが正解』という雰囲気にモヤモヤしたものを感じ、もっといろいろな角度から、何が自分にとって正しいと思える道なのかを確かめたかった」のだと当時を振り返ってくれました。この2年間は80カ国以上から集まった学生と寮生活を共にする、とても充実した期間だったそうです。学費は奨学金で賄ったため、追加の経費は渡航費程度だったとのこと。彼女の話を聞いて私も、いつか自分の子どもにこういう学校を勧められたらとひそかに思いました。

 シカゴ大学で化学を専攻時、研究のための大学院には進学しないこと、その代わりに「ビジネスの話をするにはその言葉を勉強する必要がある」として既に、将来的にMBAを取得することを考えていました。

 ビジネススクールを選ぶ際、五月さんは、より挑戦的な環境を求めて、慣れ親しんだ英語圏ではなくあえてスペイン語圏を選びました。これまでにスペイン語を勉強したことはなかったそうです。五月さんは「ただMBAだけではもったいない。大変な環境のほうが、他人に頼り、また他人に頼られる経験などを通して、より成長できると思った」と言います。でもESADEには比較的のんびりした人が多いからか「課題の締め切りが近くても焦らない『なんとかなるさ』の精神にカルチャーショックを受けました」と笑って話してくれました。文化が違うので当たり前ですが、海外経験の長い彼女でもカルチャーショックを受けたという話は新鮮です。ビジネスの勉強をしに来たというだけあって、一番役に立った授業はファイナンスや会計だそうです。ちなみに私は起業家志望なのでアントレプレナーシップです。

 五月さんは卒業後については、製薬会社だけでなく全く違う業界も候補に転職を考えています。会社を決める時に最も大事にしているのは「その会社が好きかどうか」。人に話を聞いたりインターンで働いてみたりして、その会社の文化、自分に合うかどうかなどを入念に確かめるそうです。数年後にまた転職する可能性などはあるものの、例えば製薬会社であれば国や地域を管轄するような立場になるのが目標です。さらにその先を聞いてみたところ「一生働きたい」とのことでした。

 最後に投げかけた「五月さんにとっての仕事って何?」という問いに、彼女は心に響く言葉で返してくれました。「仕事は社会貢献。こうなってほしいと思う社会を実現するためのツールです」

文・写真/竹本 恵