自分らしく幸せになるためのキャリア形成のヒント

──働かされているのではなく、自分がどうなりたいかを自覚し、納得のいく働き方をみつけるためには、どんな視点を持つことが大切なのでしょうか。

田中 主体的にキャリアを形成していくという意味で、篠田さんは考え方が非常に柔軟だなと感じます。

篠田 私は目標を立てて逆算するのは苦手だけれど、「これは嫌」ということには感度が高い。我慢に弱いということ(笑)。「ほぼ日」に入るきっかけもまさしくそうで、当時は小さい子ども2人を育てながら、外資系企業にいました。頑張ったら順調に昇格できて、次は海外勤務という状況になっていました。でもそれは、自分の家庭環境にまったく折り合わない。ものすごく閉塞感があり、仕事と育児、個人として楽しむ時間が24時間内に収まっていない状況でもありました。

田中 構造的な問題として、1人では太刀打ちできないような苦境に立たされることもありますからね。そんな時は、キャリア・トランジションしていいのですが、そこから抜け出せない女性もたくさんいます。それは恥ずかしいことではないし、負けではない。にもかかわらず、ドロップアウトする感覚があるのだと思います。

篠田 そうそう! 日本人は周囲の気持ちを慮るあまり、自分を大事にできないところがあります。「嫌だな」とか「つらい」という気持ちを出すと、調和を崩してしまうという罪悪感。言いたいことがあってもぐっと堪えて、自分の気持ちを出さない。女性はそういう構造を自分の中に持ってしまっているところも。もっと自分のことを大事に考えて、わがままになっていいのにと思います。

田中 社会的役割って洗脳されていきますからね。「女性とはこうあるべきだ」「母親はこうあるべきだ」と。

篠田 優秀で真面目な女性ほど、「先を見据えて○○すれば……」という気持ちが働きがちです。大企業の場合は、何年目で昇進するかもなんとなく見えてくるもの。だから、妊娠出産も計画できるもの、計画すべきだと思い込んでしまうのでしょう。でもそれは自然現象。いつどうなるかわからないことを計画するより、目の前にある仕事のミッションをしっかりやることのほうが、ライフイベントが訪れた時に役立つ蓄積になる。私の経験上、そう思います。子育てをしながらの仕事は、限られた時間の中で成果を出さなくてならないので、マネジメント能力がものすごく鍛えられる。職場に行って仕事をしていないから、その時間が無であるとかマイナスであるというのは大きな間違いだと認識してほしいですね。

──一方で、企業側は、そこで働く社員とどのように向き合っていくべきでしょうか。

田中 「うちにはなぜ女性社員が定着しないのか?」という経営者がいるけれど、それは多様な働き方を認めていないからです。企業は多様な働き方をする社員のキャリア支援を進めることが不可欠。それこそが経営目標を達成する近道だということは確信を持っていえます。

篠田 若いうちからリーダー的役割を女性に任せて欲しいですね。リーダーを任されるのは、30代前半辺りが多いけれど、結婚して子どもが欲しいと思うのもその頃で、マネージャー1年目に妊娠出産は無理だと断ってしまう人も。でも、それが3年目だったら?と聞くと「イエス」と答える女性は多く、その1~2年の差が大きいのではないかと考えています。「子どもがいる部下に海外出張を打診しますか?」と聞くと、男性の場合は7割に打診するけれど、女性の場合は4割に減ってしまうという調査があります。3割の女性は打診もしてもらえない。上司は良かれと思ってやっていることですが、ビジネススキルが伸びる場を女性は逃している。無意識のバイアスに目を向けて知識を深めていただけるといいと思います。

田中 もうひとつ補足すると、30代以下までのファーストキャリア形成期は形式的研修よりもトレーニング型の研修にするといいでしょうね。あとは、若いうちから女性を子会社の社長にしたり、いろいろなことにチャレンジさせている企業はブランドイメージ的にも良くなるのではないかと思います。