コロナ禍で環境が変化し、心が折れそうになった時期も

 全国各地に出向いてはイベントを開催し、地道に仕事の幅を広げてきた五十嵐さんだが、今年の春以降はコロナ禍でイベントを中止に。オンラインサイエンスショーという新しいチャレンジを行った。

 「事前に実験キットを手作りして送って、全国各地の子どもたちとオンラインでつながってのサイエンスショーを開催しました。これまでは、東京での開催であれば、東京とその近県の子にしか来てもらえませんでしたが、全国から参加できることに。距離の障壁を取り払うことができたのは、ひとつの収穫でした。その一方で、対面とオンラインとではウケるものが違うことにも気づきました。たとえば、風船がバンッと割れるような実験はオンラインだと音や私自身の恐怖感があまり伝わらず、反応がいまひとつだったり。逆に暗闇で光を出すものは、会場によっては一人一人が見えにくかったものが、オンラインでは完全に暗い状況を作ってみんなの画面に同じように映せたり。反応を見ながら臨機応変に変えていく対応力が身についたと思います」(五十嵐さん)

 しかしながら、これまでに経験したことのない環境に置かれ、不安に押しつぶされそうになった時期もあったと五十嵐さんは言う。

 「3月頃から次々とイベントを中止し、先の見えない状況に、正直言うと『これから仕事も人生もどうなるだろう』などと、心が折れそうになった時期もありました。でも、初心に帰って、『何のために会社を辞めてまで、この道を選んだの?』と自問自答して。『科学の面白さに興味を持ってくれる人を増やしたい!』という思いは何度問いかけても消えなかったので、それなら、後悔だけはしないようにしようと考えるように。コロナ禍で自粛していた期間があったことで、伝える手段が変わっていったことも含めてこの仕事への思いがより強くなったと感じています」(五十嵐さん)

 五十嵐さんは、「理系女子未来創造プロジェクト」という女性の進路の選択肢を増やす活動にも理事として関わっている。

 「理系を志す女性の中には、分野によっては女性の割合が少なく相談できる人が近くにいなくて進路に悩むことがあり、講演をするとひとりで悩んでいる人もいます。イベントを見に来てくれた学生から個別に相談を受けることもよくあります。だから、後輩たちが自分の進路を選ぶ際の選択肢が広がっていったらいいなと願っています。私は科学者とダンサーで悩んだけれど、周りの目や環境などに左右されすぎずにやりたいことがいくつかあるなら、両方やってもいいんだよ、自分の気持ちに嘘をつかずにやってみることも大切だよ、と伝えています」(五十嵐さん)

 働く環境が大きく様変わりした今、それは理系を志す女性に限らず、すべての女性に当てはまるアドバイスだといえるだろう。

 「私は就職して1年半で辞めて、自分の決めた道に進み直しました。決してうまくいく見通しが立っていたわけではなく、失敗するなら若いうちのほうがいいだろうと考えたからです。実は、その前に無人島に行く機会があって、自給自足で7日間生活するという経験をしました。そのおかげで、人間はどうにかしないといけない環境に置かれたら、どうにかするものだと分かり、怖いものはなくなったのかもしれません。もちろん、独立して間もない頃は、会社に守られていたことを実感して自信を無くしたり、仲間や上司の大切さが身にしみて孤独感を感じることもありました。でも、そんな感情の揺れを既に経験していたおかげで、コロナ禍での仕事の変化にも向き合えた。そう感じています」(五十嵐さん)