TANITAブランドの健康計測機器だけでなく、タニタ食堂やレシピ本など、健康を軸にしたサービスを幅広く展開しているタニタ。最近では、社員を個人事業主へと移行するユニークな制度でも注目されている。このプロジェクトを発案し、紆余曲折の末、実現まで主導したのが、就任以来チャレンジングな取り組みを続ける谷田千里社長だ。谷田社長と、実際に社員から個人事業主に移行して働く久保彬子さんに、タニタの働き方改革について話を聞いた。

社員を個人事業主に 前代未聞の壮大なプロジェクト

 体脂肪計や体組成計などの健康計測機器の製造販売の他、社員食堂のメニューを再現した「タニタ食堂」や、自治体や企業の健康づくりを支援する「タニタ健康プログラム」といった健康関連サービスを提供するタニタ。2017年には、社員の新しいワークスタイルを実現する、他に例を見ない、前代未聞のプロジェクトをスタートしており、それを最近発表したことで話題を集めている。

 それは、社員を独立させて個人事業主としての契約に切り替えるという「日本活性化プロジェクト」。希望する社員は、3年間のタニタからの業務発注が保証された上で、働き方をフリーランスに切り替えられる。このプロジェクトの原点は、自らの社長就任当時の会社の危機にあったと谷田社長は語る。

タニタの代表取締役社長・谷田千里さん。谷田社長が手に持つのは、自著『タニタの働き方革命』(日本経済新聞出版社)。「タニタの日本活性化プロジェクトの取り組みを課題も含めてありのままを世の中に発信することで、もっと働き方改革について議論が進めばいいと考え、執筆しました」
タニタの代表取締役社長・谷田千里さん。谷田社長が手に持つのは、自著『タニタの働き方革命』(日本経済新聞出版社)。「タニタの日本活性化プロジェクトの取り組みを課題も含めてありのままを世の中に発信することで、もっと働き方改革について議論が進めばいいと考え、執筆しました」

 「私が社長になった2008年は、リーマン・ショックの影響や、慣例に従い新しいことにチャレンジしようとしない社風から、会社は危機に直面していました。会社という組織のあり方自体を見直さなければ、この先、生き残れないという危機感がありました」(谷田社長)

 具体的に、社員を個人事業主化する制度が進むきっかけとなったのは、「一億総活躍社会」の実現を目指す政府による働き方改革が進められたことにある。谷田社長は、この内容を目にして、日本の労働環境を改善して活性化するためには、時間外労働の上限規制や、企業が人を定年まで雇い続けるだけでは限界があると感じたと言う。

 「企業が社員を雇用する年齢も、70歳ごろが限界。その先も働き続けるための準備ができる環境が必要です。それに、時間外労働をただ規制して9時から5時で働くことを強制したところで、根本的な働き方改革は実現しません。もちろん長時間労働を称賛しているわけではないです。ですが、働きたいと思っているのに残業規制のために抑えなくてはいけないのはどうなんだろうと。働く人が皆、きっちり1日8時間労働と決められて、幸せになるのでしょうか? 日本経済はいい方向に向くのでしょうか? 働く人それぞれが自分の働き方を決めるという主体性を持ち、自分の能力をしっかりと評価され、貢献に見合った報酬が十分に得られるという『報われ感』を持てる制度を作るべきだと感じました」(谷田社長)

社長自身報われなかった入社当初 頑張る人に報いたい

 こうした思いの根源にあるのは谷田社長自身、「報われない」という思いを抱き、もんもんとした時期があったからだ。

 「大学卒業後は『一人で食べられるようになろう』とコンサルティング会社でがむしゃらに働いていました。その後、父から経営について意見を求められるようになり、『タニタに来てほしい』と請われました。そこで、やりがいを感じていたコンサルタントの仕事への未練を振り切って、入社しました。ところが、新卒扱いされて、当時のタニタの人事担当役員は前職よりはるかに低い給料を提示してきた。その後も結果を出し続けていたのに報酬が伴わず、報われない感が拭えなかった。その悔しさをばねに仕事に精を出したので、今では人事担当役員がわざとこうなるよう仕向けたのではと思っているのですが、このときの経験が、頑張って成果を上げた人に相応の収入があるという形で仕事の『報われ感』を得られる制度を作るべきだという思いにつながりました」(谷田社長)