日経doorsのブランドムービーには、20~30代の働く女性なら思わず「あるある!」と大きくうなずくようなリアルなシーンが随所にちりばめられています。ネイルが剥げていたり、ヒールのかかとがボロボロだったり、顔がムクんだり……。そんなリアリティー満載の映像を撮影したのは、31歳の監督・太田良さんです。制作に深く関わったコピーライターのこやま淳子さんとともに、今だから話せるとっておきの話を聞きました。

対談前編はこちら ⇒ 「女子力」礼賛メディアを真っ向から否定

ネイルやヒールの傷みはすべて実体験

―― ムービーで思わず深くうなずいたのは「がんばっていれば、おしゃれも忘れる」のくだりです。

太田良さん(以下、太田) ネイルが剥げているのは、鈴木編集長と話した時に出てきたアイデアです。ヒールがボロボロなのは、同僚の女性プロデューサーの実体験です。

こやま淳子さん(以下、こやま) 今回、太田監督と同じ会社の久松真菜プロデューサーがまさにdoors世代で、彼女の意見もたくさん反映されています。

太田 最初は確か、ストッキングの伝線でしたよね。でも、ありきたりだったので「もうちょっと他にない?」と女性スタッフ陣から意見をもらい、演出コンテに取り入れた集大成です。

 女性がどんなことに共感するのかは、女性の皆さんから聞かないと分からないので、僕の視点は控えめにしました。どうしても「男性から見た女性」になってしまいますから。

ネイルが剥げる、ストッキングが伝線する、ヒールがボロボロ……女性たちの実体験を盛り込みました(太田さん)
ネイルが剥げる、ストッキングが伝線する、ヒールがボロボロ……女性たちの実体験を盛り込みました(太田さん)

―― 確かに、今回の映像はことさらに女性らしさを強調するわけでもなく「平熱」な印象を受けました。

太田 そう伝わっていたらうれしいですね。女性がテーマにはなってはいるけど、あくまで普通の人として日々どう暮らしているのか、どんな発見や成長があるのかをカメラで観察している視点でしたので。

こやま 広告業界って、どうしても男性の意見が強くなる傾向があります。生理用品のような女性向けの商品ですら、意思決定する責任者は男性だったり。でも、太田監督の「女性のことを分かっている感」は心強かったですね。

 撮影前の衣装合わせの時、役者さんに「この人はこういう性格で、こんな気持ちで話していて……」と、丁寧にディテールを説明されているのを見ながら、「どうして監督はこんなに女性のことを知っているんだろう」と不思議に思うくらいでした。

―― 主人公の「アーヤ」は、とても印象的です。

こやま 女優の吉村優花さんは演技が素晴らしくて、走るシーンを撮影現場で見ていたら身震いするほどよくて……。彼女、実は学生時代に陸上部だったらしいんです。だからあんなに走りがキレイなんですよね。

太田 見た目はかわいらしいんですけど、どこか陰があるというか……。頑張っている中でひたむきな表情が出ればいいなと思って、全力で走ってもらいました。

こやま 夜遅くで肌寒いのに、何回も何回も走ってもらって、でもご本人は「頑張ります」って、ずっとニコニコされていて。スケジュールもタイトな中、その明るさに救われました。

太田 「肌も荒れるし、顔もムクむ」と鏡を見るシーンは、何度も走ってもらった後で撮影しました。意図したわけではないのですが、本当に疲れた表情が出ていますよね。

こやま Twitterで「何回も見ている」という声が多いのは、メッセージを映像化するに当たり、随所にちりばめられたこうしたリアリティーが共感されているからだという気がします。