連載「パラレルキャリアのすすめ」。実際に複数の仕事に就いている女性たちをここで紹介していきます。今回は、チラシ・特売情報配信サービス「トクバイ」を提供するロコガイドに勤めながら、個人でも全国のスーパーや買い物の魅力を発信する谷尻純子さんを取材。複業を始めようと思った経緯やキャリアに対する考え方、複業を軌道に乗せるSNSの活用法などを聞いてみました。

27歳で迎えた転機 「1つの軸にこだわると人生を見失う」

――まずは本業と複業の中身を教えてください。

谷尻純子さん(以下、敬称略) 本業は、スーパーのチラシや特売情報を配信できるサービス「トクバイ」を提供するITベンチャー企業で、ウェブメディアのニュース編集をしています。「地域のくらしを、かしこく、たのしく」するというミッションのもと、買い物情報や生活情報などを発信しています。

 複業では、全国のスーパーと、ご当地食品を紹介するサイト「ゴトウチスーパードットコム」を個人で運営したり、各メディアでスーパーや買い物情報のコラムを執筆させていただいたり。テレビやラジオに出演して、ご当地スーパーやご当地食品の魅力をお話しすることもあります。

 またもう1つ、スーパーに関する情報発信とは別に、人材系のベンチャー企業で広報もしています。

ロコガイドでウェブメディアの編集業務を担当する谷尻純子さん。複業では、ご当地スーパーの魅力を発信するサイトの運営やメディア出演のほか、ベンチャー企業の広報も務める
ロコガイドでウェブメディアの編集業務を担当する谷尻純子さん。複業では、ご当地スーパーの魅力を発信するサイトの運営やメディア出演のほか、ベンチャー企業の広報も務める

――個人でスーパーの魅力を発信するようになった経緯を教えてください。もともとは料理が好きで、スーパーも好きになったんですよね。

谷尻 はい。子どもの頃から料理が好きで、就職活動をするときにも、「家庭料理に関わってみたい」という思いはあったんです。でも、当時は「家庭料理」を仕事にできるとは思っていなくて。だから、同じように興味のあった「人の人生に関わる仕事がしたい」「特に、学生の進路指導をしてみたい」と考えて、教師になろうと思いました。それで、生徒たちに有効なアドバイスをするためには、まずは自分が社会の中でさまざまな職業や仕事を見たほうがいいと思って、大学卒業後は転職支援をする人材会社に就職したんです。

 でも、27歳の頃に、少しだけ体調を崩したことがあって。このときに、「このまま人材系の会社にいていいんだろうか?」「もともと何になりたかったんだっけ?」と、ふと疑問に思いました。それで、改めてキャリアについて考え直したときに、「無理に学校教育や転職支援にこだわる必要はないな」と感じて。「人の人生に関わる仕事がしたい」という気持ちは変わっていなかったのですが、その1つにこだわりすぎると、自分の人生を見失うような気がしたんです。

 だからこの機会に、ずっと頭の片隅にあった「家庭料理に関する仕事」にチャレンジしてみよう、そうしないと後悔するだろうなと思って、「家庭料理」という分野に焦点を当てました。

 とは言え、この時点では「家庭料理」の中で何がしたいのかは、ハッキリと分かっていなくて。ただ、性格的に、いろんなことに挑戦できる仕事のほうが向いているなと思って、家庭料理に関する情報を広く得られる「クックパッド」に転職しました。私はクックパッドによって家庭料理に革命が起きたと思っているので、そういうサービスに身を置いてみたいと思ったんです。

谷尻さんが運営するゴトウチスーパードットコム
谷尻さんが運営するゴトウチスーパードットコム

――異業種への転職に、迷いはなかったんですか?

谷尻 私には、「迷ったときには正しいほうではなく、楽しいほうを選ぶ」という座右の銘があります。これは好きな漫画に登場する言葉なんですが、これに照らし合わせて考えると、正しいのは人材業界でキャリアを積むことだけど、楽しいと思えるのは家庭料理の分野にチャレンジすること。だから、当時勤めていた会社のメンバーには申し訳ないという気持ちはありつつも、素直に自分の気持ちがワクワクするほうを選ぼうと思いました

――クックパッドで小売店向けの営業を経験した後、クックパッドから独立したトクバイ(現在はロコガイドに社名変更)に転籍。広報を担当された後に、今のニュース編集の仕事に就かれていますよね。これらの経験が、複業につながるのでしょうか。

谷尻 はい。スーパーなどの小売店に販促サービスを提供する仕事に就く中で、働くうちに、「スーパーってすごく面白いのに、その情報が生活者に届いてないな」と思うようになりました。スーパーの情報を集めれば集めるほど、それぞれのお店に個性があるし、面白い取り組みをしている。でも、その面白さを発信する場もないし、する人もいない。そういう状況をずっと見ていたので、私が情報発信の場をつくって、発信する人になろうと思ったんです。そうすることで、20代・30代の生活者にもスーパーの魅力を伝え、スーパーで働く方たちにも、自分たちの仕事の価値を再認識してもらえたらすてきだなと。そして「スーパーでの買い物は楽しい」という価値観を、世の中に広めたいと思ったんです。

――複業という形でそれをしようと思ったのは、なぜですか?

 それまでは、「道は1本に決めなくてはならない」という固定観念が自分の中にあったんですが、この頃から、「道は1本じゃなくてもいい」と考えられるようになりました。いきなりフリーランスは怖い。でも、やりたいと思うことを、自分の考えと責任でやってみたい。だったら、悩むよりもまずはやってみようと思って、複業を選択しました。

好きなことややりたいことは1つだけとは限らない。道は1本じゃなくてもいいと思います
好きなことややりたいことは1つだけとは限らない。道は1本じゃなくてもいいと思います

 私は、会社のためにも仕事がしたいけれど、個人としても小売業界を変えていきたいと思っています。だから、情報収集をする上では欠かせないツールであるインターネット上に、個人がスーパーの魅力を発信するサイトを立ち上げました。