澤田さんの写真を見ようと名前で検索すると、彼の経営する会社の口コミサイトが現れた。

※【第6話】「言えないでいるこの想いは、叶うはずの恋かもしれない」

 一定以上の規模の会社は転職サイトに口コミが書かれている。そのほとんどは元従業員からのもので、すでに退職しているのだから当然会社には一定の不満がある場合が多く、結果口コミは会社や社長への批判が書かれがちだ。

 澤田さんと知り合う少し前、ごく気軽なテンションで、交際を打診してきたある知人社長がいた。私のほうも当時特定の相手がいなかったから、付き合うのも楽しいかもしれないと考えていた。インタビュー記事でも読もうと彼の名前で検索していたある日、彼が経営する会社の口コミサイトが現れて、そこにはセクハラ被害告発が書かれていた。「社長は酔うと女性従業員にも手を出し、すぐに関係を迫る」といった内容で複数人からの投稿があり、そこに書かれていた社長の発言は、私にも向けられたことがあるものだった。以降、連絡を取るのをやめた。

西新宿の夜景が輝いている
西新宿の夜景が輝いている

 澤田さんの写真が見たくなって名前で検索していたときも、会社の口コミサイトが現れた。やめておくべきだと思いながらも、ついそこを開いてしまった。

 そこには、社長は薄情だとか結果主義すぎるとか、そういった類いの批判が書かれていた。誰が何を言おうと本当に一切気にならない(メンタルが強いというより、メンタルの一部機能が停止している)起業家は多いが、澤田さんはそんなタイプではない。きっとかつての仲間がこのような呪詛を書いて辞めていったことに胸を痛めているはずだ。思い上がりと余計なお世話は百も承知で、私が彼の孤独を少しでも和らげてあげたい、そう思った。口コミサイトを見てもっと好きになってしまった社長は澤田さんだけだ。

 自分の部屋のベッドの上、澤田さんのことを考えながらなんとなくスマホを見ていた。始動したアベノミクスについての賛否がツイッター上で飛び交っている。それを眺めていると、福岡で出会った佳子さんからのフォロー通知が届いた。私もフォローボタンを押すと、しばらくしてからダイレクトメッセージが送られてきた。

 《福岡ではありがとう! 新しいサービス応援させてね。お互い起業家同級生としてこれからもよろしく!》

 私は微笑んで、

 《こちらこそありがとうございました! 一人で乗り込んだイベントだったので、佳子さんに話しかけていただけて救われました。今後ともよろしくお願いします》

と書いた。

 ベッドから起き上がり、ベランダに出た。そこには西新宿の夜景が輝いている。

 上京する前はベランダから田んぼしか見えなかったのに、今では都庁が見える、そのギャップにいつも自分で苦笑してしまう。成功への決意を込めてあえて高い部屋を借りる駆け出しの芸人のように、私は夜景にこだわって半年前ここに引っ越してきた。夜風が瞳をなでて涙がにじむと、夜景もにじんで、明かりがクリスマスの飾りみたいに見えた。

文/関口 舞