30歳で退職 リサーチの日々

 アイデンティティーが揺らいでから1年半、仕事をしながら、どんなサービスがいいのか、毎日、構想を練っていた。「ただ、当初は『自分が欲しい』ものをつくりたいという思いが強過ぎて。同期だった小野衣里(現在、AILLのメンバー)に、『なぜ私は、出会えないのか』という個人的な恋愛相談をするついでに(笑)、事業の相談をしていました。その中で、出会う層を絞り込むというヒントを得て、マッチングの精度を上げられないかと考えました」

豊嶋さんは同期だった小野衣里さん(右)に恋愛相談を持ち掛けながら、事業アイデアを練った
豊嶋さんは同期だった小野衣里さん(右)に恋愛相談を持ち掛けながら、事業アイデアを練った

 豊嶋さんは、事業の準備をするために、30歳で会社を退職。そこから本格的に動き始めた。

 「会社を辞めたと母に伝えたら、最初は泣いていました。『なんで、あんないい会社辞めたの』と。私が活躍していたのを誇りに感じてくれていたんです。でも、次に会った時からは、私の人生だからと応援してくれるようになりました」

 豊嶋さんはまず、男女それぞれが結婚相手に求めているものを調査・分析しながら、同じようなレイヤーで働いている男女各15人を、自分の手でマッチングしてみた。「ところが、このマッチングが全然うまくいかなくて。原因を探ると、同じレイヤーにいる人同士で互いのニーズも価値観も合っているはずなのに、出会ってからのコミュニケーションが進展しない。男女でコミュニケーションの取り方や恋愛の仕方に違いがあり、出会った後にその違いを埋められていなかったんです」

 実地でテストを重ねる中で、単なる男女のマッチングではなく、マッチング後のコミュニケーションをサポートする仕組みが必要だと分かった。

 「大学を出て、大手の企業に入ってバリバリ働いて……ある意味、結果を出して評価されてきた私たちは、失敗が怖い。不透明なものに注力することにためらいがある。込み入った本音は自己開示しづらい。私も、唯一の相談相手だった同期の小野に3割くらいしか話せてなかったですから。人間にかわってコミュニケーション一つひとつにアドバイスやサポートしてくれる何か……と考えたときに、『例えば、AIとか?』と頭にポンと浮かんできました