「どうして数年の間にこんなに変わってしまったんだろう? もう、あの実り豊かな畑は戻ってこないの? と、ものすごく悲しくなりました。親からは『農家は大変だから、継がなくていい』と言われ、好きな勉強や仕事に打ち込んできましたが、本当にこれでよかったのかと考えるようになって……。農業のために何かしたい、という使命感が湧き上がってきました

「いつ起業しても、最初はみんな未経験だよ」

 そもそも、なぜこんなに畑が荒れてしまったのかを考えたとき、後継者問題に人手不足、農家が十分な利益が得られないことなど、改めて農業には多くの課題があると気付いた。問題点を解決しようにも、農業の領域はビジネスとして、ディー・エヌ・エーの社内ベンチャーでは難しい。農業関連企業への転職も考えたものの、ディー・エヌ・エーと同じ雰囲気の会社は見つからなかった。もし転職しても、25歳で農業経験もない自分の意見は通らないかもしれない──。

 そう悩む秋元さんに、社会人サークルの代表者がさらりと言った。「それなら起業すれば?」

 「いやいやいや。起業経験なんかないし、ビジネスも知らない。ムリムリ! って返しましたよ。そうしたら、『今言ったことって時間が解決しないよね。たとえ5年たったとしても起業は経験できないし、経営のことも分からない。そんな理由でやらないなら、一生起業しないよ。それに、いつ起業しても、最初はみんな未経験だよ』と言われて……」

 確かに、数年たったら結婚や出産をして、やらない言い訳が増えているかもしれない。「やりたい」と強く思っている今が、もしかしたらベストタイミングなのかもしれない。

「その一言で、突然、『起業』という選択肢が現実的になって…」
「その一言で、突然、『起業』という選択肢が現実的になって…」

 たった1時間程度の雑談で、降って湧いてきた「起業」という選択肢。いきなり決断するのはさすがに怖く、一晩寝てから冷静な判断をしようと思った。

失敗しても、ゼロから起業は市場価値が上がるはず

 「ところが一晩寝てみても決意は変わらなくて。出社して、上司に『退職します』と言いました。もし、起業して失敗したとしても、ゼロから起業したら経験値が上がる、自分の市場価値にプラスだと考えました

 いきなりの報告に、上司は「転職先が決まっているならまだしも、起業アイデアもないのに何を考えているのか」と猛反対。それでも、秋元さんの決意は変わらず、職場のチームに迷惑をかけないよう、3カ月間の引き継ぎを経て、退職した。

 「ただ、退職した当初は明確なビジョンもなく、『会社を辞めた後で、きっと私は頑張るんだろう』と考えていました(笑)。私は、夏休みの宿題も8月31日にやるタイプなんです」