doors世代の起業家たちは、いつ事業のアイデアを考え、どうやって起業までたどり着いたのか。何につまずき、何が転機となったのか。起業の先にどんなドアを開こうとしているのか。さまざまなフェーズに立っている注目の起業家を取材する連載「起業 NEXT doors」。今回は、病気の家族を思う気持ちが起点となって、自身の科学的知見を生かして開発した「フラワリウム」の企画・販売事業を手掛ける興津理絵さんに話を聞いた。

自信喪失どん底が起業の原動力 フラワリウム開発(上)
自信喪失どん底が起業の原動力 フラワリウム開発(下) ←今回はココ

 興津さんは医学部生として優秀な成績をおさめ、研究所で研究を続けていたが、26歳のときに婚約破棄を経験し、1年半の引きこもり生活を送った。しかし、ある日突然、「外に出る恐怖」よりも「何もしていない焦り」が上回り、社会復帰の道を探り始めた。

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自信喪失どん底が起業の原動力 フラワリウム開発(上)

 たまたま知り合いのいる研究室で人を募集していることを知り、見学に行くことにした。

「引きこもり生活の直後だったので、また挫折したら二度と立ち上がれないとおびえていました。まずは雰囲気の良い研究室で働きたいと思い、知り合いの研究室に遊びに行くことにしたんです」
「引きこもり生活の直後だったので、また挫折したら二度と立ち上がれないとおびえていました。まずは雰囲気の良い研究室で働きたいと思い、知り合いの研究室に遊びに行くことにしたんです」

 訪れたのは、慶應大学医学部解剖学教室。脳神経系の研究を幅広く行っている研究室だった。「見学のつもり」だったが、今までの研究内容や経歴などを聞かれ、その日が実質的な面接となった。

 「私が研究していた脂肪細胞と、脳神経の研究がリンクする部分があり、『ぜひ、来てください』と言ってもらえて。引きこもっていた1年半がうそのように感じられ、ご縁に感謝しかありませんでした」

病室に花がない! 使命感を抱く

 心機一転、新たな生活を始め、興津さんはハイレベルな研究に関わり、生きる喜びを取り戻していった。そんなある日、訪れた病室で、「花」が飾られていないことに気づいた。花や鉢植えの土に細菌がついている場合があり、病院では「生花禁止」の方針が主流になりつつあったのだ。

 「病室にお花がないのは衝撃でした。どうにか病室にお花を届けたい、花の持つ力で病気の人を癒やしたい。そんな思いがふつふつと湧いてきました。自分にしかできないことかもしれない、とさえ感じていました