「4年後の起業」を目標に、新卒で就職

 大学生起業家としてビジネス経験を積み重ねていた坂田さんだが、卒業後は企業への就職の道を選んだ。なぜなら、「『新卒』だからこそ、挑戦できることがある」と考えたから。「親からも、起業はいつでもできる、一度は会社員経験を積んだほうがいいとアドバイスされました。それに、新卒って、人生でたった一度だけのブランド。何も持っていない学生が、何にでもなれるチャンスが無限大に広がっていて。せっかくなら、その新卒ブランドを生かして、営業をしっかり学んでみようと、就職を決意しました」

 社会人一年生というゼロからのスタートを切った坂田さんだが、「4年後には自分で起業したい」――そんな野望を抱きながら入社した。就職したのは、当時、急成長ベンチャーとして注目されていたクラウドワークスだ。

自分流で「結果を出す」ことにこだわる

 花形といわれる営業に配属されたが、入社後数カ月は会社のルール通り、上司のいう通りに仕事をこなした。「でも、営業成績には一つも結びつかなかった。じゃあ違うやり方でやればいいんじゃないかと、自分の思う通りに営業スタイルを変えていったんです」

 坂田さんは、営業資料のフォーマットを自分用に作り変え、トークスクリプトと呼ばれる営業トークの台本も書き換えた。営業先では、雑談からクライアントの潜在的な課題やニーズをキャッチし、その課題を解決する提案をする。服装は30万円ほどかけて、スーツにワイシャツ、ネクタイをそろえ、足元は革靴というスタイルにチェンジした。特にバッグは革製のいいものにこだわったという。

 「クライアントの多くがIT系だったので、業界全体がみんなカジュアル、足元はスニーカーのスタイル。その中で一人だけスーツでいると、見た目も目立つし、自然と信頼感も生まれる。スーツは自分にとって武器だと思いましたね」

「服装と靴を変えて、他の営業職との差別化を図ったんです」
「服装と靴を変えて、他の営業職との差別化を図ったんです」

入社1年でMVPを取ったが…

 業務を徹底的に分析し、思考を深めることで、効率化や成功の再現性を高めることにもこだわった。「例えば、メールに10分かかっていたら、辞書機能をフル活用して3分で終わらせて、残りの7分で別のことをやる。日中に取る水分量を制限してトイレに行く回数まで決める。そうやって極限まで効率化して時間をつくると、他の人よりやれることが増えたんです

 資料を見せる順番、テレアポのトーク、案件管理や行動管理……。成果を出せるフォーマットを作り、個々が応用できるように社内で共有、売り上げも上がった。そのストイックな努力の結果、入社1年目でMVPとして社内で表彰。一方で、ルールに縛られない独自のスタイルを続けるには難しい面もあった。

 「僕は、良くも悪くも波がある人間で……。結果を出すことにすごくこだわる半面、気分が乗らないと仕事をやらないときもある。組織で働く以上、守るべき会社のルールってありますよね。僕は、そのルールや仕組みに自分自身が合わせることができない難しさをずっと感じていたんです」

 「働き方を変えるか、会社を辞めるか」――悩んだ結果、坂田さんは、入社1年半でクラウドワークスを去ることを決断。そして、意を決して、独立開業に向け、動き出した。

 (下)に続く

取材・文/工藤千秋 写真/竹井俊晴