「買う」カルチャーがないアート

 アートを一般の人たちに広げるためのサービスをつくることを思いついた松園さん。

 「例えばアートフェアは鑑賞会ではなく販売の場ですが、実際は一部の方々がフェア事前のVIPデーなどで人気作品を押さえていたり、当日買える作品が残っていたとしても一般的には手に届きづらい金額のものばかりだったり、そもそも作品のことが気になってもそれを聞きづらい空気を勝手に感じてしまうなど、一般の人たちにはまだまだハードルが高すぎる。

 私も長年『アート好きなんですけど、一般人レベルです』としか言えなかったことにすべてが凝縮されています。資金力があって多くの作品を購入していたり、専門知識を持っていたり、何かしらの強いコネクトがあったりしないと、『アート好き』を表明しづらい。また、日本の美術館や展覧会などの来場者の数は非常に多いですが、流通額となった途端にグローバルに大きく差をつけられてしまっている状況です。これは鑑賞には行くけれど、買うという発想がそもそもない、カルチャーとして育っていないことに理由があると思いました」

 アートの流通に課題を見つけた松園さんは具体的なサービス内容を模索した。

 「買うという行為はアートに対する最も強いコネクトですよね。であればアートを買うという行為をいかにスムーズにするか、買う機会をどうやったら平等にできるか、金額的なところも含めていかにハードルを下げるかというアクションを探し、共同保有という発想にたどり着いたんです」

 一方、アートを購入する魅力の一つとして、その資産性にも目を付けた松園さん。

速攻で起業を決意

 「アートは投資という文脈で語られたり、金融商品と比較されたりすることがあるくらい、魅力的で価値の高いものです。そこに触れたい、投資したいと思ってもその手段が単純にない。私は小口でも、個人では一生かけてでも縁がなさそうな(笑)憧れの作品を買ってみたいと思っていて、同じことを考えている人が一定層いるという仮説を立てました。そして、すぐに起業を決めました

 起業への道を進み始めた松園さん。しかし、アート市場への参入には想像以上に厳しい困難が待ち受けていた。

 後編へ続く。

取材・文/齋藤有美(日経xwoman doors) 写真/北山宏一

下編「松園詩織 2.8億円調達 強みはチャレンジ精神」では、次のストーリーを展開

■仮説を立てては潰していく
■アート業界での勝算
■「無い市場を作る」資金集めが難航
■「よく起業したね」とネガティブなコメントも多かった
■Jカーブを描いていきたい
■アート初心者に間口を開きたい
■起業家が結婚していいのかと悩んでいた