子会社の社長を辞めた理由

 「既に確立したビジネスモデルで事業を回すことが、敷かれたレールの上を走っているようで、今いる場所がヌルいんじゃないか、もっと厳しい世界に行ったほうがいいんじゃないかと思ったんです」

もしかしたら、スタートアップで刺激を浴びすぎて、ドーパミンジャンキーになっていたのかもしれないです
もしかしたら、スタートアップで刺激を浴びすぎて、ドーパミンジャンキーになっていたのかもしれないです

 もちろん、子会社の社長で居続ければ、収入面では何も困らない生活が送れる。社長の座を用意してくれた友人には、『君が喜ぶと思ったのに、社長になってもまだ物足りないの?』と言われた。

 「スタートアップの立ち上げ期を経験して、お金では買えない満足感を知ってしまったんですよね。私が欲しいのは、年収やスペックではない。自分にとってイケてるものを追い求めたくなったんです。それは、どこかの領域で『勇者』になること。パッションを持って取り組めることがしたいと、会社を辞める決意をしました」

 坂梨さんはちょうどその頃、結婚に向けてブライダルチェック(出産を希望している人が受ける妊娠に関する婦人科系の検査)を受けていた。実は、それがきっかけで坂梨さんから湧き出たパッションは、自身のキャリアに対する美学をも揺るがすことになる。

 「坂梨亜里咲 26歳から始めた不妊治療きっかけで起業」へ続く。

取材・文/真貝友香 写真/洞澤佐智子