新宿二丁目のバーで、ドラァグクイーン(*)のMs.POSEIDON(ミス・ポセイドン)に出会った。彼女がドラァグクイーンを始めたのは今から2年ほど前。そしてゲイであることを公言したのも同じ時期だった。変身前の素顔の彼は、Hiroさん。彼の人生を180度変えたカミングアウトについて、ライター・ニシブマリエがインタビューした。

* 女性の性を大げさに表現したパフォーマンス。ゲイカルチャーの1つだが、最近はヘテロセクシュアルの男性や女性が行うこともある

女性とのセックスより、男性とのセックスに愛を覚えた

 25歳でドラァグクイーンを始めたとき、Hiroさんは周囲にセクシュアリティをカミングアウトしていなかった。それどころか、直前まで彼女がいた。

 それまでも過去には、何人もの女性とお付き合いをした。彼女たちのことは心から好きだったが、どうしてかいつもセックスレスになってしまう。流れに身を任せて、体を重ねてみても、心と体が離れていく感覚があったという。

 セックスレスになる原因は分かっていた。

 「厳密に言うと、僕はバイセクシュアルなのかな。女性も男性も恋愛対象だから。でもセックスが絡んでくると話は別。男性とじゃないとダメだった。10代の頃は、性的欲求は後から付いてくるだろうと思っていたんだけど、いつまでたっても女性とのセックスに興奮できないままだった」

 それでも、いつかは女性と結婚して、子どもをつくって、世の中的な「家族」をやれるはずだという願望が、Hiroさん自身にゲイというセクシュアリティを認めさせなかった。自分はちゃんと女性と付き合って結婚だってできる、普通の人間なんだと周囲に示したかった。

 「当時は、自分を守ることが最優先だったのかもしれないね。セックスができなくても女性と付き合っていたのは、一種のカムフラージュだったのかも。周囲に同性愛者だとバレたくないし、感づかれたくもないから。正直に言うと、むしろ同性愛者を嫌っていた時期もあったんだよね」

 中高生のときは男性同士がじゃれ合っていると「あいつらホモじゃね?」と冷やかし、同性愛の話題になると「キモいよな」と言い放ち、その場を離れた。奥底にある同性愛者かもしれない未知の自分への恐れから、ホモフォビア(同性愛嫌悪)的言動をとった。

 Hiroさんの世界を広げたのは、高校で初めて手にした携帯電話。噂に聞いていたゲイ専用の出会い系サイトに登録してみると、小さな田舎町にもこれだけの同性愛者がいるんだと驚き、同時に励まされたような気にもなった。ただ、すぐに噂が広まる地元でゲイとして生きていく勇気はない。表向きでは「彼女のいるHiro」をやり、もう1つの世界では男性と逢瀬(おうせ)を重ねた。