オーダースーツのD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランド「FABRIC TOKYO(ファブリック トウキョウ)」は、これまで男性向け商材を手掛けてきたが、近年は、女性やその他の性を対象にメンズスーツのオーダー会を実施している。なぜ、女性に「メンズスーツ」なのか。ライター・ニシブマリエが実際にメンズスーツのオーダーを体験してみた。

 何を着るかで、その日が決まる。そう言っても過言ではないほど、装いが「私」に及ぼす影響は大きい。例えば、家を出た後でアクセサリーの着け忘れに気がつくと、一日中「不完全さ」を意識してしまう。

 「まとう」は一種のアイデンティティ。アクセサリー一つでそれほど気持ちが揺さぶられるくらいだから、着たいものを着られないというのは、「なりたい私」へアクセスできないことと同義だ。

 オーダースーツのD2Cブランド「FABRIC TOKYO(ファブリック トウキョウ)」は、これまで男性向け商材を手掛けてきたが、近年は、女性やその他の性を対象にメンズスーツのオーダー会を実施している。

 なぜ、女性に「メンズスーツ」なのか。

エシカルだけど手頃なオーダースーツを実現するために

 FABRIC TOKYOはオーダースーツを売りにしているアパレルブランド。ここ数年、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けてきた。2012年の設立以来、売り上げは右肩上がりで、2020年8月現在、全国に18店舗を構える。

 「オーダースーツは高価」。百貨店のような由緒ある場所で作ろうとすれば、30万円ほど予算を見込まなければいけない。FABRIC TOKYOは、その常識に挑むために設立された。

 「D2C」という言葉がまだ一般的でなかった頃から、同社は工場との直接取引に乗り出した。問屋などの中間工程を省くことで、10万円以下のオーダースーツを実現。昨年から始まったプランに関しては、なんと2ピースで3万円台(税別)という既製品顔負けの安さだ。

 けれども、決して消費主義的な安さではない。従来の既製品は、大量に作っては廃棄してきた。FABRIC TOKYOはその陰で置き去りにされてきた問題に目を向け、海外の工場に眠っている良質な残反(余った生地)を活用した企画を実施するなど、工場と消費者の双方の利益にこだわり、エシカルでありつつも手が届く価格を実現した。

FABRIC TOKYO 表参道店の店内。生地がずらりと並んでいる(写真提供:FABRIC TOKYO)
FABRIC TOKYO 表参道店の店内。生地がずらりと並んでいる(写真提供:FABRIC TOKYO)

 もう一つ価格ダウンに貢献しているのは、データドリブン経営。一度リアル店舗で採寸すれば、2回目以降はスマホから簡単にフルオーダーのスーツやシャツを購入できるのが特長で、接客コストを削減することができる。「お客様にリピートしてもらって、初めて採算がとれる」のだと中の人が教えてくれた。

 しかし、データドリブン故に、これまではメンズスーツに限定せざるを得えなかった。無駄なく製造し、販売するためにも、体形の違う女性のデータが混ざるとデータ分析をしづらくなる。そのため、女性から「FABRIC TOKYOでスーツを作りたい」という声が上がっても、泣く泣く断ってきたそうだ。

 2020年からは、性別を限定しない「インクルーシブ・オーダー会」を期間限定で実施している。