やりたいなら、やればいい。みんな同じ24時間の中で生きている

「好きなものは好き、したいことはしたいって主張しないと」とHiroさん
「好きなものは好き、したいことはしたいって主張しないと」とHiroさん

 丁寧にひげを剃り、1時間以上かけてメイクをし、蒸れて暑いウィッグを装着しながら踊り、5kgのおっぱいを付けて、靴擦れを起こしながらも15cmヒールで街に繰り出す。

 ドラァグクイーンはお金も時間も労力もかかるが、それでもミス・ポセイドンであり続けるからには、LGBTコミュニティや来てくれるお客さんに対し、何かしらの貢献をしたい。だからこそ、二丁目が初めてだという人には、LGBTのことを少しでも身近に感じてもらえるエピソードを織り交ぜ、悩んでいる人には背中を押せるようなトークをする。

 「ドラァグクイーンが増えてほしいとは別に思わないけど、やってみたい子はやってみればいいんじゃない? って思う。やりたいことを押し殺すんじゃなくて、一旦やってみるという行動力が大事。やってみて違ったら、ただやめればいいんだから。好きなものは好き、したいことはしたい、食べたいものは食べたいって主張しないと」

 またHiroさんは、ドラァグクイーンにも多様性が欲しいと話す。

 「ドラァグクイーンになりたての頃、先輩のクイーンさんに『おまえはホモを捨てられるか?』って聞かれたの。モテるゲイの典型的な像は、短髪でガチムチでラウンドヒゲがあること。クイーンをやるとなるとヒゲは生やせないから、モテ路線は諦めないといけない。

 でも別に、ゲイやドラァグクイーンをカテゴライズしすぎる必要もないよねって思う。モテを諦める必要もない。これまで先輩方が切り開いてきた歴史にリスペクトをしつつも、ゲイにもクイーンにも、もっといろんな形があっていいんじゃない?」

 先日、ミス・ポセイドンの元に、自分もドラァグクイーンをやってみたいが、トークに自信がないと悩む男性がやってきたという。彼女は「クイーンが冗舌って誰が決めたの?」と返した。あなたには、あなたのクイーンがあると。

 「セクシャリティにかかわらず、やりたいことがあってもうやむやにしちゃう人をよく見る。これに興味があるんだけど、機会がないんだよねって。いやいや、あなたも私もみんな同じ24時間を生きているの。機会は自分で作るものだからな! って言い訳をしている人たちに声を大にして言いたいです」

取材・文/ニシブマリエ 撮影/窪徳健作