新宿二丁目のバーで、ダイナミックバディのドラァグクイーン(*)に出会った。彼女は、Ms.POSEIDON(ミス・ポセイドン)。もともと185cmある体に15cmのヒールを履いているので、身長は2メートルを超す。「付けおっぱい」はなんとHカップで、5kgもの重量があるそうな。貫禄のある彼女だが、実はドラァグクイーンの道に入門したのは最近とのこと。ライター・ニシブマリエが、彼女のドラァグクイーンとしての生き方について聞いた。

* 女性の性を大げさに表現したパフォーマンス。ゲイカルチャーの一つだが、最近はヘテロセクシャルの男性や女性が行うこともある

ドラァグクイーンで、別人格の自分を解放させている

ミス・ポセイドンに変身する前の、素顔の彼はHiroさん
ミス・ポセイドンに変身する前の、素顔の彼はHiroさん

 ポセイドンさんは、素顔でインタビュー会場にやってきた。素顔の彼は、Hiroさん、26歳。素顔の自分とドラァグクイーンの自分の呼び名を変えることで、オンオフのスイッチを切り替えている。Hiroさんは、ミス・ポセイドンとして週に5日ほど新宿二丁目のバー「在龍(ざいる)」で働きながら、イベントでリップシンク(口パク)パフォーマンスをしたり、ミュージックビデオに出演したりと、マルチに活躍している。

 「ミス・ポセイドン」はエキゾチックビューティだが、すっぴん状態のHiroさんも端正なお顔立ちで、肌はしっかり手入れされているようなキメの細やかさ。

 Hiroさんは、どうしてドラァグクイーンに扮(ふん)するのか。Hiroさんは言う。

 「Hiroもミス・ポセイドンも、本質的にはどちらも本当の自分。ただ、『Hiro』だと言えないことでも『ミス・ポセイドン』だと言えたりする。ドラァグクイーンって、僕からすれば違う自分になれる1つのツールなんです。クイーンのメイクをすると、別人になれる。変身することで、もう1つの人格を作り上げている感じかな

 隠れた自分を解放するための表現方法としての、ドラァグクイーン。

 幾つもの内面があっても、私たちは外向きの自分を選んでいる。Hiroさんは、2つの外見を使い分けることによって、複数の内面を解放させていた。

女になりたいわけじゃない

 何でもオープンになればいいってものでもないけど、まだまだ日本のドラァグクイーン文化は閉じられているように感じる。

 ドラァグクイーンと聞くと「つまり女になりたい男の人なんでしょ?」と思われることがあるが、そうではない。確かに、中にはMtF(Male to Female)のトランスジェンダー(男性として生まれたが、自認の性は女性)でドラァグクイーンをしている人もいるが、多くはパフォーマーとしての活動だ。例えば宝塚だって、男性になりたくて男装しているわけじゃない。

 「お客さんにもよく聞かれるよね。『女性になりたいの?』って。僕は、男性として男性が好きなゲイなので、普段は男性の格好をしてる。女の子たちって小さい頃、セーラームーンごっことかしたでしょ。セーラームーンになると、話し方も変わって強気になれるじゃない。それと一緒だと思うんだよね」

 Hiroさんは今でこそ自身をゲイと自認しているが、1年半ほど前まではカミングアウトをしておらず、彼女もいた。

 「性的対象は男性だけど、女性のことも愛おしいと思う。だから元彼女のことは本当に好きで付き合ってた。でも性的対象じゃないから、どうしてもセックスレスになっちゃう。それでも自分は、いつかは女性と結婚して、子どもをつくって、世の中的な『家族』をやれるはずだと思っていたんですよ

 けれどもカミングアウトをしていなかったときの自分はいつもどこか緊張していて、本音で人と向き合えなかった。そんなHiroさんが自身をゲイだと認め、公言するきっかけとなったのは、ひょんなことだった。