雑誌の私服企画で感じたフラストレーション

 今でこそ、私はエシカルファッションを提唱していますが、当時は安くてトレンドのものを使いこなす風潮を何とも思っていませんでした。けれど振り返れば、心のどこかでたくさんのものを早いスピードで消費することにうんざりしていたところはあったように思います。

 特に、雑誌で数カ月に1度回ってくる私服企画は大変でした。過去に一度も掲載していない服を着て撮影するため、企画があるたびに服を新調していたんです。さらに自宅にはショップスタッフとして購入した店舗用の服も山のように積まれていて。コーディネートを考えるのが楽しい一方で、「心から欲しいわけでもない服」を着回すことに、どこかフラストレーションを感じていましたね。

 そんな私の心にしっくりとなじんだのが、エシカルファッションでした。「エシカル」というのは、直訳すると「倫理的な」という意味。一般的には、自然環境や生産者に配慮して作られた服飾品を指します。自然環境への負荷が低い素材や生産方法を選択し、工場で働く人たちが1日3回の食事をし、子どもがいる場合は学校に通わせられるくらいの給料をきちんと支払う形で生産・制作をしようというものです。

 エシカルファッションを提唱していると、ときには「大上段に構えて『社会問題の解決』を訴えているんじゃないか」という印象を持たれることもあります。でも、本当はそうじゃないんです。私はただ、値段やトレンドなど選択の基準が外側に置かれがちな社会の中で、自分の選択にもっと主体的でありたいと思っているだけ。

 私だけではなく皆さんも、生産背景を知った上で服を選べたら、着るたびに「買ってよかった」という気持ちが強くなり、自己肯定感が上がっていくのを実感できるかもしれません。私が同世代の人たちに伝えたいのは、そういうファッションの楽しみ方。さまざまな選択肢がある中で、もし「そういう選び方もいいな」と思ってくれる人がいたら、気軽にトライできるような環境を少しずつ整えていきたいと思っています。

「生産背景を知り、納得した上で服を選べたら、自己肯定感が上がっていくのを実感できるかも」(鎌田さん)
「生産背景を知り、納得した上で服を選べたら、自己肯定感が上がっていくのを実感できるかも」(鎌田さん)

取材・文/華井由利奈 構成/加藤藍子(日経doors編集部) 写真/吉澤咲子

鎌田安里紗(かまだ ありさ)
モデル、エシカルファッションプランナー
鎌田安里紗(かまだ ありさ) 1992年生まれ。徳島県徳島市出身、東京都在住。渋谷109のスタッフとしてアルバイトをする傍ら、雑誌『Ranzuki』のモデルとしてデビュー。現在は慶応義塾大学の博士課程に在籍し、同大学総合政策学部の非常勤講師も勤める。エシカルな取り組みに関心が高く、フェアトレード製品の制作やスタディツアーの企画なども行う。