若々しい血管を維持し、アレルギーを抑えるなどの健康効果が期待される魚油やアマニ油などのn-3系脂肪酸。うつ予防や子どもの発達にも重要な役割を担う。
この記事は、「日経ヘルス」に2019年12月号に掲載された記事を転載したものです。
心血管病やアレルギーを抑えるn-3系脂肪酸
肉や魚、植物油やバターなどから、食事のたびに体に取り込んでいる油。とりすぎると肥満や動脈硬化を促進することから「油は悪者」とのイメージを抱いている人もいるかもしれない。しかし、近年の研究によって「脂質は、その質こそ重要」ということがわかってきた。
脂質の体内での働きを研究する慶應義塾大学薬学部教授の有田誠さんは、「脂質は体内で効率の良いエネルギー源になるほか、細胞の膜をしなやかに保ったり、炎症の制御に関わるなど、生命活動の維持に大切な役割を担う」と説明する。
数ある脂質のなかで特に注目すべきがn-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸。いずれも体内で作れないため、食事からとることが必要な「必須脂肪酸」だ。n-3系脂肪酸は魚介類(DHAやEPA)やアマニ油(αリノレン酸)、n-6系脂肪酸は大豆油やコーン油などの植物油(リノール酸)が主な摂取源となる。
国内で40歳以上の約3000人を対象に行った疫学調査では、血清中のn-6系脂肪酸(アラキドン酸)に対するn-3系脂肪酸(EPA)の比率(EPA/AA比)が0.5以下だと、5年後の心血管病による死亡率が上がるという結果がある(※1)。
しかし、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」では、n-3系脂肪酸摂取量は低めの横ばい状態。また、55歳以上のEPA/AA比は0.6であるのに対して、45歳以下は0.3ほど(下グラフ)と、若年層ほどn-3系脂肪酸の摂取が少ないこともわかっている。
「魚を食べる頻度が減ったことやn-6系脂肪酸の摂取量が多いためだろう。とった油は血液中の脂肪酸バランスに反映されるが、今のように摂取バランスが崩れたままだと若い世代の動脈硬化や心筋梗塞リスクが上がる心配がある」と有田さん。
有田さんは、体内でn-3系脂肪酸を合成できるようにしたマウスを用いて、n-3系脂肪酸が多い状態での体の変化を研究。その結果、心不全を発症しにくくなること(※2)、また、アマニ油の摂取で抗アレルギー効果も確認している(※3)。
「n-3系脂肪酸は、n-6系脂肪酸と競い合う性質を持つ。n-3系脂肪酸の比率が高まると、炎症を抑制する代謝物が体内で産生され、n-6系脂肪酸が引き起こそうとする炎症反応を抑える」と有田さんは話す。