妊娠を考える人はフェリチン検査を

 隠れ貧血は、不定愁訴のほか、爪が割れる、髪がパサつくなど美容面も損なわれ、女性への影響は大きい。中でも深刻なのが妊娠時だ。

 妊娠すると母体に多くの血液が必要になり、鉄の需要が増す。「フェリチンは妊娠開始時に50ng/mlあることが望ましいが、これを満たす妊婦は約2割しかいない」(岡田さん)。

 「妊娠初期から中期にかけての貧血は、低出生体重児や早産のリスクを高める。貧血なら鉄剤が処方されるが、十分に改善するには3カ月~半年くらいかかる」と山本さん。「妊娠3~8週に胎児の主な器官が形成され、8~11週にこれらが働き始めるため、妊娠してから鉄剤をのんでも遅い。妊娠の可能性がある人はフェリチンも検査して、早めに対策を」と岡田さん。

経口なら過剰摂取の心配ない強化食品やサプリの活用を

 隠れ貧血の予防策は鉄の補給。だが、成人女性の摂取推奨量の1日10.5mgに対し、現状、平均3~4mgほど不足している(※2)。「肉や魚を毎食食べるとかなりとれるが、ダイエット中や朝食欠食の人、昼食を炭水化物だけで済ませている人はまず足りていない」と山本さん。岡田さんは、「現実的には食事だけで補給するのは難しい。鉄剤の使用やサプリメントの活用を」と薦める。

 ただ鉄は過剰摂取を心配する声をよく聞く。サプリを使うと成人女性の鉄の耐容上限量1日40mgを超える心配はないのか。

 「貧血や隠れ貧血では1日100mgの鉄剤を処方する。口から鉄を多めにとっても血液中の鉄が満たされれば吸収は抑制されるので、食事のほかにサプリで10~20mgとる分には問題ない」と岡田さんは解説する。

 隠れ貧血を早く見つけ、サプリも使ってしっかりケアしよう。

※1 平成21年国民健康・栄養調査より、血清フェリチン15ng/ml未満の割合
※2 平成29年国民健康・栄養調査より
※3 日本薬剤師会雑誌:38,1145-1148,1986

取材・文/村山真由美 イラスト/もり谷ゆみ デザイン/ディッシュ 企画・構成/黒住紗織(日経BP総研 ヘルシー・マザリング・プロジェクト

山本佳奈さん
ときわ会常磐病院、ナビタスクリニック 内科医
山本佳奈さん 特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)。「青ノリ、ゴマなどを料理に足すのもお薦め。継続すれば、侮れない量がとれる」
岡田定さん
聖路加国際病院(東京都中央区)人間ドック科部長
岡田定さん 同病院血液内科部長、内科統括部長を経て現職。血液内科の臨床に長年携わり、研修医向けの血液診療の本などを多数上梓。近著は『どんな薬よりも効果のある治療法』(主婦の友社)