妊娠しやすさと栄養との関係を科学的に解明する研究を続けてきたハーバード大学公衆衛生大学院栄養疫学准教授のジョージ・チャヴァロ氏が2019年末に初来日し、東京・大手町で講演した。チャヴァロ氏は、日本で2013年に出版された『妊娠しやすい食生活 ハーバード大学調査に基づく妊娠に近づく自然な方法』(日本経済新聞出版社)の著者の一人。講演と、出版後に分かった最新研究の成果を踏まえたインタビューから、「カップルで始めたい食生活の6つの法則」を紹介する。どれもすぐに始められることばかりだ。
※この記事は、「日経Gooday」に2020年2月20日に掲載された記事を転載したものです。

女性だけでなく男性への有効性を確認

ジョージ・チャヴァロ氏
ジョージ・チャヴァロ氏

 「私たちは、約1万8000人を8年間追跡調査した米国の看護師健康調査Ⅱの結果から、女性の妊娠の可能性を高める食生活の法則を導き出し、『妊娠しやすい食生活』で詳しく解説しました。その後の研究で、この法則は、女性だけではなく男性にも同様に当てはまり、カップルで実践すべきだということがわかりました」。チャヴァロ氏は、そう説明した。

 看護師健康調査(Nurses' Health Studies、NHS)は、ハーバード大学公衆衛生大学院が1976年から12万1700人の既婚女性看護師(30~55歳)を対象に始めた大規模な疫学研究だ。第2次看護師健康調査(NHSⅡ)は、NHSⅠより少し若い25~42歳の未婚・既婚看護師11万6430人を対象に1989年から始まった。チャヴァロ氏らは、NHSⅡの対象者のうち、「妊娠を希望している」と回答した約1万8000人を8年追跡調査して、食生活と妊娠との関係を調べた。

 その結果、「妊娠の可能性を高める法則」(下表)のうち、1つでも実践している女性は、1つも実践していない女性に比べて不妊になるリスクが30%下がった。また、実践数が多い女性ほど、排卵障害になるリスクが低かった(*1)。

妊娠の可能性を高める6つの法則

1.全粒小麦粉、玄米などの精製度の低い穀類を選び、精製された炭水化物は減らそう。

2.不飽和脂肪酸を積極的にとり、トランス脂肪酸は避けるようにしよう。

3.植物性たんぱく質を積極的にとり、動物性たんぱく質の割合を相対的に減らそう。

4.葉酸(少なくとも1日400μg)や鉄分を積極的にとろう。

5.水を十分に飲む。砂糖入りの清涼飲料水は控え、コーヒー、紅茶、アルコールは飲みすぎない。

6.体重をコントロールしよう。太りすぎているなら、体重の5~10%を減量する。日本人の場合、最適なBMIの目安は19~23程度。1日30~60分、体を動かそう。

『妊娠しやすい食生活 ハーバード大学調査に基づく妊娠に近づく自然な方法』(日本経済新聞出版社)とチャヴァロ氏の取材を基に編集部が作成)

 男性もこれらの法則を実践すれば、精子の運動率が上がることが複数の研究で分かってきた。米国の大学生188人を対象にした研究(*2)では、魚や鶏肉、果物、野菜、豆類、全粒粉の穀類中心の食事をしている男性の精子の運動率は、赤身肉、ベーコンやソーセージなどの加工肉、白いパンなど精製された穀類、ピザ、スナック菓子、砂糖入り清涼飲料水や甘い物を好んで食べている男性より高かった。

 スペインの大学生215人を対象にした研究(*3)でも、果物と野菜、魚介類を含む地中海食中心の食事は、加工肉やフレンチフライ、スナック菓子中心の食生活より、精子の運動率を明らかに高めることが分かっている。

*1 Obstet Gynecol. 2007 Nov;110(5):1050-8.
*2 Hum Reprod. 2012 Oct; 27(10): 2899-2907.
*3 Hum Reprod. 2015 Dec;30(12):2945-55.