「赤ちゃんのために、しっかり栄養をとらないと――」。妊娠が判明したら、こう思って食事を見直す女性は多いはずだ。では妊娠前はどんな食事をするといいのだろう。

 これから赤ちゃんが欲しいという人たちが健診や食事相談に訪れる国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)のプレコンセプションケアセンター。そこで栄養カウンセリングを担当する管理栄養士の鴨志田純子さんは、相談に来る女性たちに共通する「妊娠前の食事のとり方についての誤解」を指摘する。多くの女性が陥っている食事パターンとその改善点について、相談実例をもとに鴨志田さんに解説してもらった。

「やせているほうがいい」という考え方の落とし穴

 検診当日、過去3日間の食事記録を提出し、それをもとに健康的な妊娠に向けた食生活のアドバイスを受けられるプレコンセプション・チェックの栄養カウンセリング。最近の相談者の傾向を分析すると、「時間がない、忙しい」という従来からの背景に加え、「『やせているほうがきれい、体脂肪は少ないほうがいい』『太りたくない、不調の自覚症状がないから栄養は足りている』という意識から食事を抜いたり、減らしたりして、体重をコントロールしようとする女性が多い」と鴨志田さんは話す。

 確かに、BMI(体格指数、体重[kg]÷身長[m]÷身長[m]で算出)が25.0以上の肥満の場合は、食生活の改善と体重のコントロールが必要だ。肥満があると、妊娠を機に妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群を発症する可能性があるためだ。

 だが、適性体重の範囲内やBMIが18.5未満のやせの状態の人の場合、食事をセーブすることは、かえって妊娠のためにも赤ちゃんの健康のためにも逆効果だ。
「妊娠前から母体の栄養状態をよくし、エネルギーやたんぱく質をきちんととって体脂肪や筋肉が適正についた体の状態を保つことが、スムーズな妊娠につながり、生まれてくる赤ちゃんの健康リスクを減らすことにつながるのです」と鴨志田さん。

 しかし現実は、妊娠を希望しているにもかかわらず、多くの女性に「朝食抜き」「健康によいといわれる食品を過信」といった食事のパターンで、栄養不足が多く見られるそうだ。

 2パターンの食事の問題点と改善ポイントは後で紹介するが、まずは妊娠前から食事量を抑えることの問題点について簡単に整理しよう。

栄養不足は妊娠と赤ちゃんの健康に悪影響

必要以上に食事制限することの問題の1つ目は、やせているとそもそも妊娠しにくくなる可能性が高まるいうことだ。

 やせすぎて体重が減少すると、女性ホルモンのバランスが乱れ、排卵障害や月経不順の原因になる。そもそも月経のリズムが乱れている状態ではスムーズな妊娠につながりにくい。

 2つ目は、栄養状態の悪い母体から生まれた赤ちゃんは、出生体重が2500g未満の低出生体重児になる可能性があること。多くの研究から、低出生体重児は将来、糖尿病や高血圧などの生活習慣病や認知機能に影響が出るリスクなどが指摘されている。小さく生まれた赤ちゃん全員が病気を発症するわけではないが、妊娠前からお母さんがしっかり栄養をとる生活をすることで、将来、赤ちゃんの病気のリスクを抑えられるのなら、できるだけのことはしたいもの。
 日本DOHaD学会の代表幹事で産婦人科医の福岡秀興氏は、「妊娠したい人が目指したいBMIは20~22」とアドバイスする。

 3つ目の懸念は、お母さんの栄養不足が赤ちゃんの発育に影響を及ぼす可能性がある点だ。例えば、二分脊椎などのリスクを下げることが分かっている葉酸や、卵子の生育にも関わるビタミンDは妊娠前または受精した時点から赤ちゃんの組織や器官の形成に大きくかかわる栄養素の代表。それ以外にも、体組織を作るたんぱく質、全身に酸素を運ぶ鉄や骨を作るカルシウム、腸内細菌を活性化させる食物繊維などはとくに女性に不足しがちで、妊活中にしっかり補充しておきたい栄養素だ。食事の量が少ないと、こうした栄養素もバランスよくとるのが難しくなる。
 
 妊娠を目指すなら、適正体重を維持し、食事からとる栄養の内容にもっと目を向けたい。では、現実の働く女性たちの食事では、どのような食品のチョイス、食べ方が問題になるのか、そしてその改善点を見ていこう。