無理なダイエットは将来の健康と次世代に悪影響
「食事量を減らすと、飢餓から体を守る防御機構が働いて甲状腺ホルモンの分泌量が減少し、その結果、疲労感が生じ、体温維持機能が低下することが、米国のミネソタ半飢餓実験で検証されている。甲状腺ホルモンが減少すると、エネルギー代謝も低下するのでダイエットをしてもやせにくくなる。代謝が落ちれば、肌や髪の調子も悪くなる可能性がある」と田中さん。
疲れやすい、冷え性、肌の調子が悪いなどの不調はダイエットが原因かもしれないのだ。
女性ホルモンの分泌にも影響する。「エネルギーが不足すると月経が止まったり不順になったりする。その状態を放置すると、将来不妊や骨粗しょう症になるリスクが高まる。無理なダイエットは厳禁だ」。こう指摘するのは、産科婦人科舘出張佐藤病院院長の佐藤雄一さん。
さらにエネルギー不足の女性が妊娠すると、低出生体重児(2500g未満)が生まれやすいことがわかっている。日本では、新生児の10人に1人が低出生体重児で、その割合は先進国の中で最も多い。
低出生体重児の問題は何か。「母親の胎内でエネルギー不足を経験した低出生体重児は、食料難でも生きられるよう遺伝子レベルで変化。食糧が豊富な状況下で育つと標準体重児より糖尿病や高血圧などの生活習慣病になりやすくなる。第二次世界大戦のオランダで飢餓を体験した妊婦から生まれた児の追跡調査などから、メタボリック症候群や心筋梗塞のリスクも高いことがわかってきた」(佐藤さん)。
胎児期の栄養状態が将来の健康を左右するとの説は、「DOHaD(ドーハッド)(※3)説」と呼ばれ、国際的にも注目されている。やせ過ぎは、自分の現在と将来の不調をもたらすばかりか、3世代先までの子孫の健康にも影響を与えるという。
食事の量は「命と健康の根源」。無理なダイエットは控えBMI18.5以上を目指したい。
※2『日本人の食事摂取基準(2020年版)』
※3 Developmental Origins of Health and Diseaseの略
取材・文/福島安紀 イラスト/もり谷ゆみ デザイン/ディッシュ 構成/黒住紗織(日経BP総研 ヘルシー・マザリング・プロジェクト)
産科婦人科舘(たて) 出張(でばり) 佐藤病院院長
女子栄養大学 栄養学部教授