20~40代の6~7割が不足 菜食主義や糖質制限は注意

 これだけ重要な働きを持つ亜鉛。成人女性の摂取推奨量は1日8mgだが、20~40代女性では60~70%の人で亜鉛が不足している(下グラフ)。「国別に亜鉛欠乏の頻度を調べた研究では、日本人の15~25%が亜鉛欠乏状態だった(*)。こんなに不足しているのは先進国では日本だけ」(児玉さん)。

亜鉛摂取量が推奨量以下の人の割合(女性)
亜鉛摂取量が推奨量以下の人の割合(女性)
亜鉛不足は20~40代のワーキング世代に多い。肉の摂取が少ない人やダイエットで穀類の摂取を制限している人は要注意。「子供に亜鉛不足が少ないのは給食のおかげと思われる」(児玉さん)。
データ:日本人の食事摂取基準2020年版、国民・健康栄養調査(平成28年)より。岡山和代さん(広島国際大学医療栄養学部医療栄養学科准教授)提供

 また、「足裏への衝撃で赤血球が壊れたり、汗で排出量が増えるため、スポーツをする人も不足しがち。気になる症状がある人は、病院で『亜鉛を測りたい』と申し出て。保険適用で500円程度で検査できる。血清亜鉛値が80μg/dL未満なら治療の対象になる」(児玉さん)。亜鉛不足で起こりがちな症状は、右ページの下を参考に。

肉や穀類をしっかり 加工食品は頻度を減らす

 「国民健康・栄養調査」(平成30年)によると、成人は平均して0.4mgの亜鉛が足りていない。では、亜鉛を補うには何でとるのがいいのか。亜鉛といえば牡蠣が有名だが、頻繁にとれる食材とはいえない。

 日常的にとる食材として、肉、魚、卵などに多いこと、また大豆やナッツ、米などの穀物もいい供給源であることに着目したい。

 「日本人は亜鉛の3割弱を穀物から摂取しているというデータがある。主食を極端に制限するような食事では亜鉛不足につながりやすい」と東北大学名誉教授の駒井三千夫さん。最近はやりの糖質制限ダイエットなどは、要注意だ。亜鉛は動物性食材に多く含まれるため、「菜食主義の人も欠乏しやすい」(児玉さん)。

 また、「加工食品に使われる添加物の中には、亜鉛の吸収を阻害する作用を持つ“亜鉛キレート剤”を含むものがある。亜鉛キレート剤のとり過ぎは、亜鉛欠乏の一因になる。加工食品は忙しいときなどにはうまく活用してほしいが、同じものを食べ続けると、栄養が偏ったり食品添加物の多食に陥る可能性が高まる」と駒井さん。連日、加工食品ばかりになるのは避けたほうがよさそうだ。

亜鉛を体外に出す亜鉛キレート剤って?
「食品添加物には亜鉛と結合するキレート剤を含むものがある。キレート剤と結合した亜鉛は腸から吸収されずに便中に排出される」(駒井さん)。せっかくとった亜鉛の吸収率を下げる可能性があるのだ。「亜鉛には体に有害な重金属を解毒する機能もある。亜鉛不足で重金属が処理できない状態になると、不定愁訴の原因になるケースも」(同)。

※『味覚障害の全貌』冨田寛著、診断と治療社

代表的な食品添加物のキレート剤
■ ポリリン酸ナトリウム
■ ポリリン酸カリウム
■ エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA-Na)
■ カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)
* Nature com/Scientific Reports 5 :10974/DOI:10.1038/srep10974

取材・文/村山真由美 イラスト/もり谷ゆみ デザイン/ディッシュ 構成/黒住紗織(日経BP総研 ヘルシー・マザリング・プロジェクト

児玉浩子さん
帝京平成大学 特任教授
児玉浩子さん 大阪大学医学部卒業。帝京大学小児科教授、帝京平成大学健康メディカル学部教授を経て現職。専門は小児栄養・代謝・内分泌、微量元素の代謝・栄養。日本臨床栄養学会「亜鉛欠乏症の診療指針2018」の作成に携わる。
駒井三千夫さん
東北大学名誉教授
駒井三千夫さん 東北大学大学院農学研究科単位修得退学。東北大学大学院農学研究科教授などを経て2019年より現職(大学院農学研究科・学術研究員)。専門は栄養学、ビタミン学、味覚生理学。亜鉛欠乏による味覚障害に詳しい。