「男性の精力増強」「味覚障害」など、どちらかというと特別な状況への効用が有名な亜鉛。実は、亜鉛不足は女性に多い貧血の一因になっていることや、美肌など、美容にも必須の栄養素であることは意外に知られていない。
この記事は、「日経ヘルス」に2020年10月号に掲載された記事を転載したものです。

鉄剤で治らない貧血は「亜鉛欠乏性貧血」を疑って

 亜鉛の不足といえば、味覚障害との関連が有名だ。しかし鉄不足と同様に貧血の原因になることをご存じだろうか。

 鉄欠乏性貧血は赤血球を構成するヘモグロビンの材料である鉄が欠乏することで起こるが、亜鉛欠乏性貧血は赤血球が正常に作られないために起こる。

 「亜鉛はDNAの複製に必要で、不足すると細胞分裂が正常に行われなくなる。造血時に不足すると、赤芽球が赤血球に成熟しないため貧血になる。鉄欠乏と亜鉛欠乏は合併している場合が多いが、亜鉛欠乏性貧血は医療者にもまだ十分理解されていないため見逃されがち。貧血で鉄剤をのんでも改善しない場合、亜鉛不足を疑って」と帝京平成大学特任教授の児玉浩子さんは話す。

 実は貧血や味覚障害以外にも、亜鉛不足は肌荒れや抜け毛などの美容面、また、骨粗しょう症、免疫機能の低下、男性不妊など多様な不調に関係している。これは亜鉛には「たんぱく質が作られるときに不可欠な酵素を活性化させる働きがあるから」(児玉さん)。亜鉛がないと働かない酵素は体内に300種類以上もあるという。

 例えば、近年、その重要性が再認識され、美容やボディメイクのために意識してとる人が増えたたんぱく質。だが、いくらたんぱく質を一生懸命とっても、亜鉛不足だと筋肉の合成や肌のターンオーバーがスムーズに行われず、努力はムダになりかねないのだ。「たんぱく質をとるときは亜鉛もセットで」を心がけたい。

 亜鉛は細胞分裂やたんぱく合成に必須なので、胎児や赤ちゃんの成長にも不可欠だ。「妊婦は鉄が不足しやすいことが知られているが、亜鉛も同様に不足している。将来妊娠を望む人や妊婦、授乳婦は、赤ちゃんのためにも、鉄とともに亜鉛の摂取も意識して」と児玉さん。