就業時間が長い人ほど、栄養が偏り、エネルギーが枯渇状態

 「働く女性の平均摂取エネルギーは1495kcalで、これは終戦直後を下回る数字です。私たちの調査によると、就業時間が長くなるほどエネルギーや栄養素の摂取量が低下することがわかりました」(細川さん)

東京、大阪、名古屋、札幌、京都の20、30代の就業女性人口統計をもとに、この5都市で実施したラブテリ保健室の調査結果1542人分をウエイトバックし、推定した数値。「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の20代、30代女性の推奨量、または目標量を満たしていた人の割合。(出典:一般社団法人ラブテリ)
東京、大阪、名古屋、札幌、京都の20、30代の就業女性人口統計をもとに、この5都市で実施したラブテリ保健室の調査結果1542人分をウエイトバックし、推定した数値。「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の20代、30代女性の推奨量、または目標量を満たしていた人の割合。(出典:一般社団法人ラブテリ)

「残業をすると夕食の時間が遅くなり、翌朝食欲が湧かないため、朝食を抜くという悪循環に陥ります。この朝食の欠食がまず、エネルギー摂取量が低下する大きな原因と考えています。さらに、残業時間が長いほどクッキーやチョコレートなどのおやつを食べる人が多くなり、太りたくない人は、こうしたおやつだけで済ませて夕食をとらないことも少なくありません」(細川さん)

 思い当たる人が多いのではないだろうか。これではまともな食事はランチ1食のみになり、当然、必要なエネルギーや栄養素は不足してしまう。

働く女性が注意したいのは糖尿病

 女性の社会進出は痩せや栄養不足だけでなく、睡眠や運動の不足も招いている。「残業が多いと睡眠時間は短くなります。働く女性の睡眠時間は5~6時間でした。そもそも日本女性の睡眠時間はOECD加盟国で最短で、そのことが私たちの調査からも裏付けられたことになります。また、慢性的に運動不足の人が多く、20代、30代の働く女性の約3割がロコモティブシンドローム(※4)に該当することがわかりました。こうした栄養、睡眠、運動の三大不足はさまざまな健康上の問題を引き起こします」(細川さん)

※4 運動器症候群。骨、関節、筋肉の衰えが原因で、立つ、歩くといった機能が低下している状態。

 最も気を付けたいのが、糖尿病だ。「働く女性が陥っている『朝食抜き』『おやつ摂取過多』『栄養不足』『飲酒量過多』『運動不足』『睡眠不足』という要素は、すべて血糖値異常を引き起こす要因になります。今現在、痩せ型や普通体型であっても、こうした条件に当てはまる人は、将来的に糖尿病を発症するリスクが高い糖尿病予備軍です」と細川さん。

 「実際、妊娠を機に高血糖になる妊娠糖尿病の人が急増していて、一部の患者はそのあと本当の糖尿病になることが分かっています。また、日本女性の20~30人に1人が発症している排卵障害のひとつPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の患者は血糖値を下げるホルモンが効きにくく、血糖値が高めであることがわかっています。日本の不妊症患者を対象とした研究(※5)では、不妊症の人は朝食欠食率が高く、食事の時間が不規則であることが明らかになっています」(細川さん)。

「基礎体温管理アプリの発表では、規則正しく排卵している人は3人に1人しかいないことがわかっています。無排卵は自覚がないため放置しがちです。そして、結婚していざ子供が欲しいとなった時に、それが原因で妊娠ができなくなってしまう。そうなってしまうことを防ぐには、どれだけ仕事が忙しくても自分の健康に目を向けることが大切なのです」(細川さん)

※5「排卵障害を伴った不妊症女性における臨床栄養学的研究」国立健康・栄養研究所/神奈川県立保健福祉大学/金城学院大学

まずは朝ごはんと健康的なおやつから

 働く女性の健康調査から、若い女性の健康を守るためにこれだけはしてほしこととして細川さんが提案するのが、以下の6つのメソッドだ。

若い女性の健康を守るための「6つのメソッド」
●朝ごはんを食べる
●朝ごはんにタンパク質を食べる
●1日8000歩歩く(あるいは早歩きで3,000歩)
●栄養のあるおやつを食べる
●カフェインを1日300mg以下に抑える
●6時間以上寝る

「みなさん、何はなくとも朝ごはんを食べてください。朝ごはんにはタンパク質をとること。そして、栄養のあるおやつを食べることです。栄養を満たすことが健康を保つスタートラインです。まず、この3つを心がけて」(細川さん)

 今年5月に、日経BP総研とラブテリが共同で行った日経BP社の5つの女性媒体(日経doors、日経DUAL、日経ARIA、日経ウーマン、日経ヘルス)の読者1074人の調査でも、「長く健康で働き続ける自信がある」と回答している人は、朝ごはんをしっかり食べていた。「朝ごはんを摂っているかどうかは、生涯年収や学業成績など、いろいろなものに関わっていることが多くの研究からも分かっている。また、朝ごはんにたんぱく質をとると、体内時計のずれをリセットするのに役立つことが分かっており、糖尿病の予防にも役立つ」と細川さん(参考記事)。ちなみに、細川さんの言う健康的なおやつとは、「三食しっかり食べている人でも不足しやすい、鉄やカルシウム、食物繊維を補えるおやつのこと」だ。

 女性が定年まで働く時代は、はじまったばかり。健康を犠牲にせずに長く働くために、doors読者にもまずは、『6つのメソッド』の実践から始めてほしい。

これから管理栄養士になる女性たちへのメッセージ

 この授業では、細川さんの講演の後、ヘルシー・マザリング・プロジェクトのメンバーが、これから管理栄養士として働こうとする「栄養の専門家の卵」たちに、管理栄養士と仕事をしている先輩社会人からのメッセージを送った。

明治 研究本部乳酸菌研究所栄養研究部 栄養1G長 三本木千秋さん:弊社は乳製品、粉ミルク、菓子、栄養食品、流動食など赤ちゃんからお年寄りまで幅広い世代の人々に対し、健康で豊かな食生活を実現するための商品をお届けしています。管理栄養士の資格をもつ社員が3%ほどおりますが、基礎研究、商品開発、企画営業、食育、全国支社での営業活動など様々な分野で活躍しています。私の所属する研究本部では、お客様の健康な食生活に貢献する商品をお届けするため、研究員全員で日々新たな価値創造に挑戦し続けています。研究活動を実践できる、あるいは研究所以外の所属でも研究の価値を理解し伝えることができる管理栄養士は貴重な人材です。

バイエル薬品 コンシューマーヘルス部門 シニアブランドマネージャー 栗原宏枝さん:神経管閉鎖障害の赤ちゃんが増えているのは先進国では日本だけ。管理栄養士になったら、妊娠前から葉酸をとることの重要性や、サプメントなどの栄養補助食品で葉酸を摂取することを厚生労働省が推奨していることを発信して欲しいです。管理栄養士はコミュニケーション力が求められる仕事。相手の価値観やライフスタイルを否定せずに、寄り添いながら、よりよい食事を提案するスキルを磨いてください。

ロート製薬 広報・CSV 推進部 広報・CSVグループ 小川未紗さん:弊社は製薬会社ですが、毎日とりいれる食から健康に貢献できることとして、足りない鉄分を手軽に補う事ができるゼリーを開発したり、薬膳レストランの運営、農業などに取り組んでいます。企業や自治体で活躍している管理栄養士は、世の中で栄養に関する社会課題は何かを考え、しっかりしたビジョンを持ってアクションを起こしています。そういう方と企業の垣根を超えて連携していきたいと思っています。

予防医療コンサルタント 一般社団法人ラブテリトーキョー&ニューヨーク代表理事 細川モモさん:栄養の専門家を目指す人たちには、世界の栄養事情を見て欲しいと思います。例えば、米国では小麦粉に葉酸が添加されていたり、州によっては飲み物の自販機は上から順に健康的なものを入れる決まりになっています。国民のリテラシーを上げるというより、環境を整えることへのサイエンスが進んでいるのです。経済、教育格差により文字が読めない人がいるニューヨークは、情報を伝えることが洗練されてます。海外の栄養士と触れ合ってみてください。

日経BP総研 メディカルヘルスラボ 上席研究員 黒住紗織:管理栄養士は、体に入る前の食品の栄養については知識をお持ちですが、体に入ってからどうなるのかについて詳しい方が少ない印象です。健康分野を広い目で見て欲しいと思います。例えば、栄養の学会に出席するだけでなく、病気の学会にも出席して勉強するのもいいと思います。確固たるエビデンスを持って栄養について語れる、説得力を持った管理栄養士が増えてきたらとても心強いです。

取材・文/村山真由美 撮影/新関雅士 構成/黒住紗織(日経BP総研 ヘルシー・マザリング・プロジェクト)

ヘルシー・マザリング・プロジェクトとは

 将来、赤ちゃんが欲しいと思っている人に、「転ばぬ先の杖」として知っておいてほしい大切な情報を伝え、若い女性の栄養問題など、現状の問題点を解決する方法を提案していくプロジェクトです。

■詳しくはこちらを参照してください
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